目白からの便り

品質管理とキャリア

ある打ち合わせの場面で品質についての話題になった。その話題は、事業会社に在籍した時に、品質保証体系と連動した「業務の分掌」を策定するプロジェクトでの苦労の記憶を覚醒させた。商品やサービスを提供する時、その出来栄えの目標を定めて、その水準を継続的に維持することが求められる。人間はその安定した時間の積み上げによって商品やサービスの供給元の会社に信頼感を寄せる。この会社、この組織、この人から出される「何か」は安心して受け入れることができるという感覚を形成する。その時間軸が長期化すればするほど、信頼度は累積的に堆積し、絶対的な企業ブランドとして競合の追随を許さなくする。長い年月を経た伝統に裏付けられたブランドにはそうした努力の積み重ねが世紀を超えて蓄積され、そのブランドが放つ価値が受け手側の脳裏に刻印される。

「品質」には二つの視点が必要だと思う。受手が期待する品質水準(目標品質)を定めることと、その品質水準が目標幅から逸脱しないように管理し、機動的・自律的・主体的に修正プログラムが発動されるように「仕組み化」することである。その役割を明記する機能の一つが、組織の役割と責任を全社的に体系化した「業務分掌」となる。目標品質を定めるプロセスの起点は受け手の期待値に集中することが大切である。商品やサービスでいえばお客様の期待値となる。顧客の期待に無頓着な企業側からの独善的で一方通行の提供価値は淘汰され、やがて消滅する。注意深く、わが身を振り返り、受け手の期待値を知ろうとする継続的な努力が不可欠なのである。

多くの企業で、品質に関する思想は高く掲げられるが、実際を観察すると、二次的、補完的な処置がとられていることが多い。組織人事的にも品質を担当する人材が経営の重責や職場の中での中核を担うケースに出逢うことは少ない。品質管理は、最終的に人づくり、組織風土に連鎖し、ブランドを対外的に認知させていく機能でありながら現実的な取り扱いは後手に回る。発生した品質トラブルに対して、事後処理の作業を行いながら、消極的な反省を繰り返すのではなく、積極的に攻めて目標品質を突破する活力が求められる。

キャリアに関しても類似している。それぞれの人がもつ職種や役割、立場に期待される価値の目標水準を定めることなく、漠然と時間の流れに身を任せていると、他者からの信頼を喪失する。自身のキャリアの買い手の存在から目を背けないことである。品質管理の話題は、自分自身が仕事を通じて、社会に対して担うべき役割について真摯に向き合い、その言動や立ち居振る舞いにおける良質さを常に向上させ続けるための内在的なメカニズムを面倒がらずに保守、鍛錬する大切さを思い出すきかっけになった。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2020年9月18日  竹内上人

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