目白からの便り

年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず 2023年

今年の京都の桜の開花日は3月17日、満開日は3月23日だったとのこと。この桜の時期なると「年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず」(唐代詩人 劉希夷 651-680)の詩の一句(白頭を悲しむ翁に代わりて)が蘇る。今から40年ほど前、京都の修学院離宮の近くにある関西セミナーハウス(修学院きらら山荘)で、恩師である故中條毅先生(同志社大学名誉教授)から新入生に語られた言葉であった。今でもその場の空気感とともに覚えているのが驚きでもある。凡庸としているとすぐに人の一生は老いたどり着いてしまう。目まぐるしくわが身に起こる出来事を、願わくはすべからく滋養として取り込み、しなやかに生きる糧にしたい。年齢を重ねてきた先生が、大学に入学したての学生を前にして語りかける言葉の心境を、自分自身が先生と同じくらいの年令になり、其の心境に重なり合うことに驚く。

『古人復た洛城の東に無く、今人還また対す落花の風、年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず、言を寄す全盛の紅顔の子、応に憐れむべし 半死の白頭翁』

中條先生は、自叙伝である「ウシホから産業関係学への道」の中で、戦時中に海軍の軍人として乗艦されていた駆逐艦の潮(ウシオ/ウシホ)*からの労働政策の研究領域である産業関係学(Industrial Relations)の道に進み、その研究に生涯を貫き通した歩みを振り返っている。日本のこの研究領域の創成期に全身の精神を注ぎ尽力した先生であると思う。中條先生からは学生時代、学びの機会、実学の機会など多くの支援を受けた。その想いをもち、私自身、この2年間労使関係の学び直しの機会を得るべく、多くの方の助けを得ながら人生の最終盤で再度、大学院での学びの場に戻ることを選択した。

変わらずに地道にやり続けることから開けてくることがある。どのような職業でも、長く続けることからにじみ出てくる存在感と風格は、知識を超える。職業におけるキャリアを極めるモデルでもある。あれもこれもと、移ろい易い気持ちを深く問いただし、一貫して良質な仕事を試み、積み重ねを繰り返していく姿勢そのものが大切な価値であると、この桜の時期に恩師の生涯に触れる度に心に刻み込まれる。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2023年3月31日  竹内上人

*「ウシホ」、駆逐艦「潮」は、1931年11月17日に竣工。排水量1,980トン、出力5万馬力、37ノットの超高速艦。太平洋戦争の開戦から終戦(1948年解体)までその任を完遂。終戦時まで残存した特殊駆逐艦は「潮」と「響」のみ(中條先生の自叙伝『「ウシホ」から産業関係学への道』より)

 

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