目白からの便り

リーダーシップの取り方 組織行動の正しい理解 その2

知的財産にかかわる学習の雑談の中で、米国のバイデン政権が新型コロナウイルスワクチンの特許権放棄を支持するという声明を出したことに関して、知的財産を研究、それを職務にする方々からすると、マグネチュード7クラスの大激震であるとの衝撃とのことで熱が入る。ことの経緯をたどってみると新興国が世界貿易機関(WTO)に要請し、先進国がワクチンの独占していることや、米国以外の主要国でワクチン外交という切り札で世界に影響力を増しつつある勢力に対する政治的なバランスをとる政治的な言動の側面もある。

そうした外交上、政治上のバランス感覚は控えて個人や組織の知的財産やノウハウ、熟練や匠の技などといった技能伝承にも通じるような見えざる資産の権利保護について効力について考える良い機会になる。特許などの法的に守られた知的財産保護に関しては、その開発者にそこに至る努力に敬意を払い、次なる新たな科学的、社会的な価値を創出する意欲を減退させないという励ましの枠組みでもあり、その外的尊敬と評価、それにかかわる経済的な利権を享受し、次への開発意欲の再生産の連鎖によって、イノベーションが誘発され社会的に利便性や価値あるものが提供されることになる。この意味で、膨大な開発投資をした製薬会社にとって、その労に報いるための正当な報酬や利権を社会システムの中で放棄せざる得なくなることに深刻な戸惑いを感じるのは無理のないことであろう。

私が社会人になって間もないころ、知的財産を統括する責任者の方と組織変更の打ち合わせをしている会話の中で印象に残った言葉がある。その言葉は30年たった今でもその語感が脳裏に深く沈殿している。その知財部門の責任者の方は、営利組織が協同的ではなく、防御的に知的財産を囲いこむことは、イノベーションの連鎖の機会を広く社会に喚起することを妨げているので、行き過ぎた知的財産の保護的な仕組みは避けるべきだと20歳代の若い人事マンの私に語り掛けた。純粋な技術者としての創造的な知的好奇心を社会システムで囲い込まれることの窮屈さを感じてのことなのであろう。

法的な資産には至らないが、職場や企業単位の小さなコミュニティーの中でも技能や熟練、ノウハウや経験値といった個人が仕事を通じて身に着けた貴重な経験値をできる限り組織共有の資産にしたいという思いは、多くの経営者や組織リーダーの方にとっての願望であろう。彼らは共同体としての収益性や効率性、作業安全性の基盤づくりの最大化の責務を担っているからである。個々が有する知識やノウハウを他者に惜しげもなく伝えることをシステムで誘発していくべきか、人間がもつ相互依存的な共同体という生存本能によって喚起させるかは極めて難しい選択である。それまでの組織をけん引してきたリーダーのもつ雰囲気にも大きく依存する。環境局面に応じて機動的に変化できる相互協同的な組織の雰囲気を醸し出すためのリーダーシップの取り方はリーダーとしての取るべき基本的な資質になるのであろう。その時、リーダーはスタイルはともかく献身的にならざる得ない。(次週に続く)

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

竹内 上人

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