目白からの便り

キャリアを物語る服の香り

二週続けて伊勢で週末を迎える。今朝は、澄み切った快晴の空が広がっている。大型の台風が気がかりだが、今日は良い天気になりそうである。

『服はしょせんうわべだと人は言う。その人の現実を繕い、ときには偽るものだと。服ごときに人生のすべてを注ぐのは愚かなことだ。が、服は、人を支えもする。受け入れがたい現実を押し返すため、はねつけるためにも服はある。そうした抵抗、もしくは矜持を人はしばしばその装いに託す。服は折れそうな心をまるでギブスのように支えくれる重要な装備でもあるのだ』。数年前に掲載された朝日新聞のコラムの切り抜きが連用日記からこぼれ落ちる。

私のクライアント企業の多くが、ファッション・ジュエリーの業界である。多くのブランドのクライアント企業の人事の方とお会いした。今まで私の人生の中で、足を踏み入れたことのないラグジュアリーブランドの店舗も訪れたり、丁寧に案内もいただいたりした。また、それ以上に圧倒的な多数の転職を考えているファッションやジュエリーのお仕事に携わる方とお会いした。その機会を通じ、それぞれの方からファッションに対する深い想いとか、人生の中での位置づけなどについて教えてもらうことが多くあった。高価な服であっても、作業服であっても、大切なことは、どのような想いで、それを身にまとうかである。また、どのように丁寧に扱い、正しく装うかでもある。

服についた香りもしかりだ、服には、仕事を通じて染み込んだ匂いがある。それぞれの服にその人の仕事を通じての記憶としての匂いがある。自分にとって服に染み込んだ想い出の匂いは、工場から漂うオイルのほのかな香りであった。

私は製造業で人事のキャリアをスタートした。入社してすぐに半年間、製造現場への実習にでた。腕時計の工場の回路基板、コイル巻き、ムーブメント(駆動体)組立、外装組立、出荷検査、冶具・工機職場と、工程ごとの職場で働いた。現場の作業長や班長、先輩・同僚の方から様々なことを学んだ。仕事の後に飲みにも誘ってくれた。皆、配属が人事だと知っているから、人事に戻ったら、「俺たち製造現場のことも意識して仕事をしてくれや」と励まされた。私の人事屋としての判断基準の原点は、この体験にあるのであろう。

自分の心を支える服、その服に記憶として染み込んだ香り、これらが、キャリアの原風景でもあり、原動力でもある。困難に立ち向かう時の戦闘装備でもある。自分の装いと香りを振り返る週末にしたい。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

伊勢にて 竹内上人

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