目白からの便り

「掲示物」が働きかける動機付けの価値

みなさま

松本市内は早朝から静かな雨が降り注ぎ、秋の風景に染まりつつある街路樹にしっとりとまとわりついてる。本物の秋の雨なんだと感じる。澄み渡った青空もいいが、こうした細かな霧雨のような中に包まれるのも心地よい。暖かい飲み物が、より体内に染み込む。

先日、国際産業関係研究所(同志社大学内)の定例研究会に出席した。今年度は、きちんと勉強をしようと心に決め、総会から欠席することなく出席できている。継続することによる達成感も定例会出席へのモチベーションにつながる。

大学の講義でも私の成績評価の25%は出席率にしている。毎回、「自己紹介カード」に小さな丸円のカラーシールを貼る。ひと学期15コマから16コマあるが、生徒のカードに毎回異なる色合いのシールが並べられていく。出席することによる小さな達成感が、学習意欲につながるモチベーションリソースになる。後期は、生徒数が少し増えたこともあるのだが、シールをカードに張り付ける作業を本人に任せている。自分で出席のシールを貼るという単純な作業を他者に任せないことも大切な動機付け要因だと前職(セイコーエプソン)で学んだ。

取り組んでいることの可視化は、人間の動機喚起にポジティブな影響を与える。日本の製造業の現場には極めて巧みな「掲示物」が張られている。工場内や社員食堂に掲示されている様々な「掲示物」には、個人の業績以上に、職場工程ラインごとの歩留まり率や改善件数の実績推移、合理化効果のコストダウン額の寄与度など、本当に工夫された「掲示物」が張られている。これが作業チームや工程単位での競争意識を鼓舞するかの様に描かれている。これが日本のモノづくりの現場の優れた生産性と、品質向上のマジックなのだ。成果の認知プロセスを個人からチームへバランスよく配分することにより、組織としての良質な情報の交流を促す。

単に『見せかけの掲示物』と『苦労の積み重ねによる掲示物』はその輝きに圧倒的な差異を放つ。

査定や昇格昇進という個人評価の反映物としての個別動機付けも大切であるが、働く仲間と工夫して、小集団の価値を高めていくことを認知していく試みは、職場の秩序や倫理観、優れた組織活性化の原動力になる。

工場長や経営者、管理職のやるべきことは、そうした「掲示物」の前を通る時には、常に立ち止まり、思慮深い表情をしながら真剣に向き合う所作を欠かさないことだ。その風景は鮮明に働く人の脳裏に刻印される。

私も生徒から授業の後に返されるカードを指さし確認しながら、注意深く扱うよう心がけたい。その行為自体が、生徒の為というより、私自身が講義に向き合う意義と責任を心に刻みこむ大切な訓練の場なのである。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本にて 竹内上人

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