目白からの便り

キャリアと品質管理

企業研修や大学講義で、品質管理について講義を行うことがある。今週もいくつかのプログラムで話す機会があった。私は人事屋なので品質管理は専門ではない。ただ、専門屋ではないからこそ、その大切さも強く感じる。日本的経営の中核、特にものづくりにおける品質はその強さの象徴でもある。 その発想は、一つひとつのものづくりのプロセスだけではなく 会社全体のマネジメントの品質をどのように仕組みとして保証して行くかというところまで広範囲に広がる。品質という言葉を発する毎に人事屋の私が事業会社在籍中に人事から離れ事業企画管理の役割を担っていた期間に品質保証体系と連動した組織・機能の業務分掌体系の策定プロジェクトでの苦労の記憶を覚醒させる。

組織の外に向けて商品やサービス、あらゆる付加価値を提供する時、それぞれに対する出来栄えの目標を定めて、継続的に供給することが求められる。人間はその安定した時間の積み上げによって信頼感を寄せる。この会社、この組織、この人から出される「何か」は安心して受け入れることができるという感覚を形成する。その時間軸が長期化すればするほど、信頼度は加速度的に増し、絶対的なブランドとして競合の追随を許さなくする。伝統的に裏付けられたブランドにはそうした努力の積み重ねが世紀を超えて蓄積され、ブランドがもつ価値に対する基調となる思想が昇華し、受け手側の脳裏に刻印される。

「品質」には二つの視点がある。受手が期待する品質水準(目標品質)を定めることと、その品質水準が目標幅から逸脱しないように管理し、機動的・自律的・主体的に修正プログラムが発動されるように「仕組み化」することである。その目標品質を定めるプロセスの起点は受け手の期待値、商品やサービスでいえばお客様の期待値となる。顧客の期待に無頓着な独善的な提供価値は淘汰され、やがて消滅する。注意深く、わが身を振り返り、知ろうとする継続的な努力が不可欠なのである。多くの企業で、品質に関する大義名分は高尚であるが、実際の資源や経営者がとる時間配分を観察すると、二次的、補完的な処置がとられていることが多い。人事的にも品質に卓越した人材が組織経営の重責を担うケースに出逢うことは少ない。最終的に人づくり、組織風土に連鎖し、ブランドを対外的に認知させていく機能でありながら現実的な取り扱いは異なる。起こるべくして発生した品質トラブルに対して、事後処理の作業を行いながら、消極的な反省を繰り返す。

キャリアに関しても類似している。それぞれの人がもつ職種や役割における提供価値の目標水準を定めることなく、漠然と時間の流れに身を任せていると、他からの信頼感を喪失していく。不注意に一度失った信頼感の挽回、回復には相当の努力を有することになる。だから細心の留意を払わなければならない。品質管理の講義は、自分自身が社会に対して担うべき役割について真摯に向き合い、その言動や立ち居振る舞いにおける良質さを常に向上させ続けるために、自らの感情を統制し、面倒がらずに自分自身の心技体を保守し、鍛錬を継続する大切さの自覚を促す。そして、それは今日からもできる。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2021年9月17日  竹内上人

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