目白からの便り

集団間の競争と集団内の協調 掲示物の放す価値

仕事であれ、試験勉強であれ、取り組んでいることの可視化は、人間の動機喚起や継続にポジティブな影響を与える。健康維持の為に取り組むウォーキングの状況や、ゴルフのスコア、贔屓(ひいき)にしてるスポーツチームや、相撲の黒星・白星などの取組勝敗表なども同様である。そうしたグラフであったり、歩数やスコアの推移などをビジュアルで確認すると反省もしたり、今日も頑張ろうと励まされる。アプリケーションソフトが進化し、最近は携帯端末の中にすっぽり収まってしまうのだが、それでも、部屋の壁や冷蔵庫にそのグラフや統計表が貼ってあれば、日常生活の中で目に留まり、そのたび、刺激を受ける。家族のあたたかい励ましを得られるかもしれない。

かつて、品質改善活動を機軸においた小集団活動;QCサークル(Quality Control Cercle)の成果の開示として、日本の製造業の現場には極めて巧みな「掲示物」が張られていた。私も企業に入社してしばらく、人事の職場でもQC活動を製造現場の活動を参考に、見よう見まねで取り組んでいた。到底、製造部門の活動とは比べ物にならない貧弱な内容だという気おくれも、若いなりに感じていた。QC活動という職場や作業チーム単位の小集団の業務の改善活動は、現在も継続している会社もあるかもしれないが、1980年代と比較すると、勢いは衰えていると思う。こうした活動は、日科技連(一般財団法人 日本科学技術連盟)がその主導的な牽引の役割を果たしてきた。日科技連は、文部科学省科学技術・学術政策局基盤政策課所管の法人でもある。現在50歳後半から70歳に近い年齢の方は、職業人生の最盛期に、熱狂のような品質改善・合理化・生産性活動の鮮明な記憶を持っている方が多い。QCD(品質・コスト・納期)への絶え間ない取り組みが日本の現場の生産性をゆるぎないものとしてきた。「無駄とり」、「5S」、「3定」といった生産現場の黄金律はこうした活動から生まれてきたのだと思う。

当時、工場内や社員食堂に掲示されている様々な「掲示物」には、職場工程ラインごとの歩留まり率や改善件数の実績推移、合理化効果のコストダウン額の寄与度など、本当に工夫された「掲示物」が張られていた。これが作業チームや工程単位での競争意識を鼓舞するかの様に描かれている。これが日本のモノづくりの現場の優れた生産性と、品質向上のマジックなのだと感じる。成果の認知プロセスを個人からチームへバランスよく配分することにより、組織としての良質な情報の交流を促す。そして、単に『見せかけの掲示物』と『苦労の積み重ねによる掲示物』はその輝きと衝撃度に圧倒的な差異を放つ。

査定や昇格・昇進という個人評価の反映物としての個別的動機付けも大切であるが、働く仲間と工夫して、所属するチームの価値を高めていくことを認知する試みは、職場の秩序や倫理観、優れた組織活性化の原動力になる。また、職場ごとに切磋琢磨することは、集団間では競争が発生するが、集団内ではメンバーを助け合うという協調行動が自然に促される。心理的安全性:Psychological Safety (Edmondson 1999)という機能は、管理者個人の資質評価に起因するだけでなく、集団のメカニズムとも深い関係がある。

工場長や経営者、管理職のやるべきことは、そうした「掲示物」の前を通る時には、常に立ち止まり、思慮深い表情をしながら真剣に掲示物から何かを読み解こうとする所作を欠かさないことだ。その風景は、鮮明に働く人の脳裏に刻印され、よりよい活動の成果に向けての励ましになる。それゆえ、掲示物は食堂や、談話室など、人々が交流するにぎやかな場所に張られるのが最適である。個人の競争を促す仕組みも大切だが、集団としての競争を支える仕組みも組織マネジメントには欠かせない。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2022年10月14日  竹内上人

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