目白からの便り

取扱説明書とチビ太のおでん

みなさま

今朝の西三河地方は、青空が広がっている。空と同様に、この地域は、見渡す限り平坦な土地で愛知県の中でも農業としての土地基盤整備の進んだ水田率の高い地域である。温暖な気候と矢作川を水源とする明治用水などの水利条件に恵まれ、農業生産は昔から盛んなのだ。幼い時の教科書には日本のデンマークと称されていた。

電化製品やAV機器、またコンピュータやその周辺機器には、取り扱説明書が付属している。最近の特徴はその取扱説明書が薄い。特に市場を凌駕しているスマートフォンに至っては、がっしりと梱包された箱の中にはそういった類のものを探し出すことはできない。製品自体の利用価値が、補足説明を要する必要がないほど操作性に優れている。この段階に至るまで様々な試行錯誤が繰り返され、使い手側の状況を想定した設計がされるのであろう。すこぶる多くの新技術が凝縮された製品であるので、設計詳細は極めて高度で複雑な仕掛けの塊であるのにもかかわらず使い手側はその価値を自然に堪能している。

その風景は自動車でも同じである。自動車販売員の簡単な説明はあるにしても、説明書を読んで運転をする方は稀有である。それほど製品としての完成度が高い。製品の提供価値や目的が何かを突き詰めた結果出来上がった代物だからである。

転職を考えている方の履歴書や職務経歴書から仕事の変遷で苦難を積み重ねてきたことが痛いほど読み取れることがしばしばある。本人にとってあまりにも過酷な苦労があると、働き手としての職業価値が分かりづらいことがある。経験やスキルの特徴や強み、転職先に対しての提供価値が曖昧になり、自分自身を表現するストーリー自体も迷走する。こちらが質問すればするほど、本人は自信喪失してしまう。

私はそうした状況に陥っている方のキャリアにおけるアドバイスとして、「チビ太のおでん」の話をする。チビ太のおでんは、3つの具(コンニャク、ガンモ、ナルト)が串にささっている。
一つ目の具は、「なぜ現職を離れたいのか」、二つ目の具は、「なぜこの会社を応募したのか」、最後の具は、「この会社でどのような貢献ができるのか」、これらの具が一本の串で筋の通った物語性、論理性があるか否かを問いかけることにしている。最初にこの質問に対する答えの多くは、それぞれの具についてきちんと考えが整理できている方でも、一貫性がない方も多い。味付け、風味もバラバラである。
受け手からすると、買い求めにくい「おでん」である。履歴書や職務経歴書を丹念に読み返し、その人の持つ価値が何であるかを精査する手間を有することになる。

人のキャリアと商品の扱いやすさを同じ土俵で評することは、ためらいもあるが価値交換の構造には違いがない。

最近は、「チビ太のおでん」というと馴染みがない方が多くなっているのも悩みである。最初に、「チビ太のおでん」って知っていますか。と尋ねる。笑顔とともに知っていますよという答えだけで、今日の私の説明の大かたは伝わるだろうと安堵する。誰か代替となる適切な例えのアイデアを教授してほしい。

今日一日が良い一日となりますように、また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

三河高浜にて 竹内上人

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