目白からの便り

Business Athletes(職業競技者)と競争による新結合

新年あけましておめでとうございます。新しい年が、皆様にとって豊かな年となりますことを祈念いたしております。

今年1月2日から3日、最後の見直しを繰り返している修士論文を傍らに携えながら、箱根駅伝をテレビで観戦する。正式には、東京箱根間往復大学駅伝競走(関東学生陸上競技連盟が主催)と称される。今年で99回目。来年は100回の節目になる。記念大会として全国の大学に門戸が開放されるとのことだ。対象が広がると大学間の競争関係も多様性と流動性が加わり刺激的で楽しみでもある。既成概念や既得権益にとらわれず、一回限りの記念大会のイベントにとどまらないことを願う。従来の地域とは異なる新しく多様な選手やチームの参加は、新たなイノベーションをこの大会にもたらし、個体成長の起点となるだろう。健全で良質で、納得性のある集団の競争の広がりと深さがもたらす価値は意義深い。

異なる結合が新しい価値であるインベーションを誘引する。経済学者のシュンペーター(Joseph Alois Schumpeter)は、『経済発展の理論』(1912)で、イノベーションを新結合(neue Kombination)」と表現した。良質な異質なものを結合することによって、新しい変化が促され、貴重な価値に昇華する。競争という概念は、優劣を競い合う過程での成長だけでなく、新しい組合せによる価値創造の試行実験でもあるのだ。

この箱根駅伝が起点となり、ビジネスアスリート(Business Athletes) と言う言葉を数年前から考え続けている。仕事を通じ「働く人」の視点と「経営者」の視点の相互理解の一致点としての概念として最も適切な言葉を探し続け、この言葉にたどり着いた。言葉の意味するところを直接的に訳すのであれば、「職業競技者」となる。

今年も駅伝競走の中継を観ながらその思いはいっそう深まる。陸上競技、特に長距離走を目指す大学生にとって箱根駅伝は大きな舞台である。この日に向けて練習を積み上げる。そこには強固なトレーニングだけではなく精神的な練達や身体的な鍛錬が求められる。それと同時に集団としての凝縮性が堅牢になり、チームメイト間の「切磋琢磨による健全な競い合い」や「友愛に満ちた相互の励ましと援助」によりチームとしての純度が高まる。試合に向けて普段から仲間を気遣い、自らを律し、自己鍛錬し、次の学年への継承(技術や知見)に心を配る。チーム全員が全員戦力化されるのである(2022,守島)。その姿に卓越した企業人・組織人としての職業意識が重なる。

私の大学時代のゼミの担当教授の石田光男先生(同志社大学)は、人事評価制度の究極的な到達点として、スポーツの世界における爽やかさをいかに持ち込むかということを熱心に語っていた。その絶妙なバランスの中に良好な労使関係が築きあげられるのだと主張する。その実践講義なのか、ゼミを早々に切り上げ、御所の近くにあった卓球センターに行き実践指導も受けた。そこには未熟な技術への叱責と向上に向けた指導、賞賛と励ましが混ざり合った現場でもあった。当時学生だった私にとってはその目的の理解が不十分であったのだが、40年の企業社会での人事屋の現場にいるとその意味を知ることができるようになった。

今年一年.私自身、悔いのない「職業競技者」として、「集団間の競争」の効用のモデル化を希求して、一日一日の積み重ねの日常生活をおくることができればと、新しい年の起点に立ち強く思う。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一年が皆様にとって豊かな一年でありますように。

2023年1月6日  竹内上人

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