目白からの便り

選抜試験と格について

今週、長野県では高校入試があった。正式には「入学者選抜」と表現される。全国でもこの時期、同じように行われているのだろう。若い方の多くは、高校入試が初めて向き合う選抜を前提とした試験なのかと思う。学力試験と中学時代の内申書を中心に、高校によっては、面接や志願理由(自己PR文)や作文(小論文)、実技検査なども参考にして総合的に合否判定が示される。

私自身も同じように45年ほど前にツメ入りの学生服を着こんだ自分自身の高校入試の光景と合否発表の情景が鮮明に脳裏に沈殿している。多くの方にとっても、忘れられない出来事なのかとも思う。試験というものは、人生の中でこうも記憶に刻み込まれるものかと驚く。人によっては、中学への入学の段階で受験する方もいるだろうし、その後大学へ進学する人は大学入試に直面する。社会に入る時にも同じように入社試験や、公務員試験などと人生は選抜試験の連続である。

試験は、企業に入っても私たちを悩ませ、入社後は昇格試験に続く。多くの企業で昇格試験を通じて処遇(賃金)と連動した職務階層(グレード)としての「格」の評価を行う。毎年あるものではなく、概ね「係長」や「主任」といったリーダー職的な役割を担う位置づけの段階と、「課長」などの管理職として経営の補佐層として職場をマネジメントする立場になる時に行われるのが一般的なタイミングである。企業によっては、役職自体を給与体系上の「階層」として処遇体系にダイレクトに連動する人事体系としている場合もある。それぞれの体系に関しては企業がおかれた経営環境や過去のいきさつに委ねられるので、その利点も課題も内在化する。4月は企業での定時人事異動や組織変更が行われる会社も多い。ちょうど3月の中旬を過ぎるこの時期、人事異動や人事発令の内示を受け、戸惑ったり、新しい役割に期待を持ったりしている方も多いのではないだろうか。

この週末から、大相撲の三月場所(大阪場所)が始まる。スポーツの世界は企業社会以上に厳しい。前場所の成績により、新しい場所の「格」が毎回変わる。その明確な選別が力士の絶えない緊張感と応援するファンの期待を引き出す。それが、相撲自体の内的な活力を刺激し続けるのであろう。降格する力士も、降格によって自らの鍛錬の欠落を振り返り、返り咲きを誓う。年とともに力量が落ちつつも一つ一つの立ち合いに真摯に向き合い、降格していきながらも「相撲道」という道を究めていく。キャリアの閉じ方として、その力士の姿勢に自己を同化させる。

終身雇用的な労働環境や職能給的に緩やかな賃金上昇カーブに慣れてしまった日本企業に所属する働き手にはそうした心境にはなかなか至らないのであるが、こうした力士の精神性を学んでみるのも大切なことかと思う。4月の新年度を迎えるこの時期、間もなく訪れる桜の花の観賞を楽しみにしながら、どのような環境であっても新しい年度の抱負を前向きに考えてみたい。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2022年3月11日  竹内上人

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