目白からの便り

就職活動と家訓

就活生向けのキャリア講座を依頼される機会が多い時期でもある。個別にも相談され、レクチャーをすることも多い。これから本格化する就活生もこの時期、真剣に自己のこれからについて暗中模索の中、格闘することになる。キャリアのことを話題にする時に引き合いに出す話題としてこのコラムで何度か紹介したことがある京都のお線香を家業とするお店の家訓がある。

『細く 長く 曲がることなく いつも くすくす くすぶって あまねく 広く 世の中に』
(京都 松栄堂 家訓)

家訓であるから、その家の家業をどのようにマネジメントしていくかを、先代が後世の継承者に戒めをもって伝えたい言葉なのであろう。それ以来、この言葉が、「働く人」のキャリアの在り方と重ね合わせられる。就活は、自分自身のこれからの働き方のデザインをどのように描いていけばいいのかを考える機会でもある。現在を肯定しつつも、これから先、どのように歩んでいけばいいのかを問われる。普段は表に出すことをためらうこの面倒な宿題を採用面接に備えて、物置小屋の奥から引っ張り出される。

ひとり一人のキャリアの設計も、企業の戦略策定の描き方と類似性があると考える。正しい経営戦略を有している会社は、市場から求められ続けられ、社会に不可欠な価値を提供し続ける。当然のことながら組織のモチベーションも高く、働く人たちの職業倫理も高い。

キャリアの設計図も同じようなことがいえる。極言すれば正しい手順と描き方で、キャリアデザインという自分自身の職業計画書を策定し、日常管理のプロセスで自己マネジメントを適切に行えば誰でも社会にとってより頼りにされる卓越した人材になる。これは、持って生まれた素質ではなく、後天的に習得できる技能なのである。企業経営がそうであるように、活動の停滞を市場や顧客に転嫁した瞬間にその組織の自律性は劣化する。成長を急ぐあまり、論理の飛躍した経営判断をすることによって手痛いしっぺ返しを食らう。生身の人間のキャリアも他者に自己の不活性化の原因を転嫁した瞬間に輝きを失う。

就活でうまく自己表現ができずに途方に暮れる学生の救援活動も行いつつ、こうした気づきや学びの場を提供したい。キャリアは、線香の煙のように長く続くものである。急ぎすぎず、自身の良質な香りを周囲に漂わせることに専念することにより、人々の中に芳醇な香りがのこり、運命の出会いに巡り合う。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2022年3月18日  竹内上人

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