目白からの便り

逆境を選択し、悠然と向き合う

今週の初めの成人の日、私はこの成人の日に掲載される伊集院静さんが執筆しているサントリーの企業広告を毎年楽しみにしている。かつては山口瞳さんであった。

今年のメッセージは、「君だけの価値を探し出し、それを獲得せよ。」と記されていた。「…泣いている人、悲しんでいる人、その人々に手を差しのべる勇気と力を持とう。価値はカタチもないし、金で手に入るものではない。地位や名誉や賞賛でもない。真の価値を探し、それを獲得するために生涯はある。…」。

そして、今年、私が特に心を奪われた部分は、「…上り坂と下り坂なら、上り坂を進め、追い風と向かい風なら向かい風に立ちなさい。そりゃ苦しいが、苦しい中に立ってみないと他人の気持ちはわからないし、自分の至らなさにも気付かない。…」

キャリアを考える時に人間の成長はその環境に大きく依存する。逆風であっても、自分に創造的な変化を要求する環境に身を置くことは、自己成長や鍛錬の場を与えてくれる。人間的な成長や感受性の高まりもそこから得られる。そうした逆境の中で自己を内省するには、一人の方がいい。組織集団の中に埋没していくと時々自己を喪失し、他の影響の中だけで時間を積み重ねていく危険がある。それはある意味居心地が良いのだが、成長のための機会を他人に委ねてしまうことになる。

今週末、大学入学共通テストが始まる。昨年に引き続きコロナ禍の中での逆境の中に受験生はいる。大学の受験で悶々とした日々を過ごしていた時、当時京都大学の教鞭をしていた森毅先生のエッセイが今でも心の中に沈殿している。そこにはこう書かれてあった。「京都三条大橋の近くに1匹の老犬がいる。老犬は悠然と通りを横断する。車の往来をまるで全く気にしていないかのようにゆったりと。おそらく彼は鋭敏な神経を研ぎ澄まして周囲に気を配っているのだろう。そんな不安をその姿から感じ取る事をさせず悠然と歩いている。」

私たちは大人になっても、どんなに歳を重ねても、自分のキャリアの選択を自らの責任で行い、そこから学び、感じ取る前向きな努力を試みるのがいい。キャリアの選択の場に立つ時、時には、あえて新しく、困難を伴う挑戦の選択を危険な道路を横断する老犬のように悠然と試みる勇気も必要なのだ。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2022年1月14日  竹内上人

 

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