受験生は、大学入学共通テストが終わり、自己採点の結果に喜び、悩み、コロナ禍という難敵とも戦いながら、前期・後期日程の受験に向き合っている頃だと思う。私の大学受験は今から凡そ40年程前に遡る。若いころの記憶なので今でも当時の心境は鮮明に覚えている。
『友人の読んでいる雑誌、参考書が気になることがあります。友人の受験対策の方が優れているように見えることもあります。また友人に提示された数学の難問にこだわって、貴重な時間を費やしてしまうこともありうることです。それは夏休み頃までなら、それなりの収穫もありますが、「河中に馬を変えることなかれ」という諺があるように、いまここで今まで君のたどってきた勉強方法を変えてはなりません。「A君は難関校に入った、よくやったな」という話を耳にしたことがあるでしょう。そして、自分の進路を選ぶとき、つい難易ランキングを気にしてしまうものです。大切なことは何大に入ることではなく、大学で何を学ぶかということです。そこに、自分が生涯拠り所にする専門分野がどんな形でおかれているかも大切です。人それぞれに性格も違いますし、そこから発する持ち味も違うものです。日本の社会が貧しかった頃はともかく、今後の社会で、君たちの幸福は学歴だけでは決まらない。私はそう思います。・・・(中略)・・・受験への道はひとりで行く道です。他の人と比べるのではなく、マイペースで一歩ずつ進みましょう。』
これは、当時、ある新聞に掲載された数学者の寺田文行先生(早稲田大学 故人)のコラムである。40年たった今もその切り抜きをとってある。私が通学していた高校は自宅から片道2時間以上かかる田舎にあった為、塾などには通うことができず、受験勉強はもっぱら「大学受験ラジオ講座」に頼っていた。寺田先生は数学を担当していた。参考書も「寺田の鉄則シリーズ」というとても分かりやすい参考書を執筆していた。早朝5時、雑音が入る放送をカセットテープに録音し、その後、何度も繰り返し聞いた。後で知ったのだが、私がラジオ講座を聞いていたころ、重度の障害をもったご子息が亡くなった頃と重なる。寺田先生は、その時期、ラジオ放送の数学講座を通じ、受験生を勇気づけ、力強い言葉を発していたことになる。
私は職業を選択する岐路に向き合っている方々の支援をする職業に携わっている。これから実社会に出ていく大学生であれ、企業で豊富な経験を積んだ方に対して、少しでも人事屋としての経験に基づいた支援ができればと思う。こうした方と向き合う時に、寺田先生の言葉にある他の人と比較することなく、自分自身の進むべき道を考え、選択することの大切さが染み込んでくる。就職や転職の先にある、それぞれの方にとって大切な何かを一緒に考えながら、勇気づけられればと願う。
今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。
2021年2月19日 竹内上人