目白からの便り

若年層の社会的筋力の低下

先週、所属する国際産業関係研究所の月例研究会で藤本昌代先生(同志社大学社会学部 教授)による「コロナ禍で働くということ」と題した発題で、リモートワークが就労にどのような影響与えているかについてフィールド調査を踏まえた学習の機会を得た。ものづくりの現場や身体的活動を伴う仕事は感染リスクを最小化する制約はあるが同じ空間で仕事を行う環境は継続した。その一方で、規模が大きな組織や、IT業界の事務的な仕事を中心に多くの仕事がリモートワークで行う形態に移行した。

明らかに利便性が高まる中で、移動時間を効率的に活用でき、感染リスクを最小化する意味では、デジタルを活用した仕事のやりとりはとても効率的、安全な環境になったのではと思う。また個人の属人的な仕事のやり方の標準化・共有化が促進されてきた。一方で、結果としての成果や数値化された業績進捗がより求められるようになり、そのプロセスにおいて働き手の事情を微細な就労態度から収集する機会が減少してきた。働き手は、自分が置かれた個別的な就労・生活環境の情報発信の機会の減少に戸惑っているかもしれない。

議論の中で藤本先生が話された「社会的筋力の低下」と言う言葉がその後も私の脳裏に大切な言葉ではないかとその残像が消えない。能動的に身体を動かして人と対話をするという行動意識や意欲、能力の低下と微細な感情の変化を吸収するという機会の減少という警鐘でもある。我が身を振り返ってみても、相手の意向を気遣いすぎてか、直接お会いすると言う行動を躊躇する意識が日常化してきているのも事実である。そして、相手の実情を気遣う感受性の低下が自分にも浸食されていないかという反省でもある。人間関係的に身体を伴う活動の機会が減少する中で、社会関係構築能力にどのような影響与えているかは人事の視点でも看過できない。

特に大学や教育現場においてもオンラインでの講義が中軸になり、クラブ活動などを通じた友人との交流の機会も減少する中で、就労を控えた若年層が社会的筋力の経験や訓練が希薄なまま実社会に出て行く影響はその後のキャリアの構築プロセスにおいて心配でもあり、その機能を補う感性や感受性を向上・維持する学習経験や体験的な機会の提供方法の考察の必要性を感じる。デジタルによる生産性の恩恵と人間的関係構築力のバランスをどのように学習させていくか学校教育現場や企業における若年層の人材育成に新たなテーマを投げかけているのかと思う。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2021年2月26日  竹内上人

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