目白からの便り

二十歳の原点

成人式の式典が従来の形式を変え、また延期されるという報道に触れながら考えることが多い一週間であった。長女も成人式の予定であったが、コロナ禍の影響で5月に延期されたとのこと。久しぶりの幼馴染と会う機会を逸し、寂しいという気配は痛いほど感じる。

ここ数年、働き方改革に連動する企業の人事制度改定の場に立ち会うことが多い。その論点は人事制度、特に賃金体系に思考が集中する。私の学生時代からの専門は賃金であるため、その大切さを重く受け止め、できる限りその現場に立ち会いたいと願う。基本的変化の潮流である職能給的な仕組みから職務給的な仕組みへの転換プロセスは、丁寧に、正しい人間理解に基づいたシナリオを考え、設計・計画化しなければならない。賃金の配分ルールは、月給や賞与という現実的な貨幣の配分にその姿を転嫁し、働き手の喜怒哀楽につながる。

日本企業の経営者や人事担当者が向き合わなければならない環境変化の設問は、企業毎に濃淡は様々で、それが緩やかであっても、急激であっても、日本人の働き手が今後少なくなること、年齢が高い人の比率が高まること、情報技術の進化に伴い、商品・サービスの市場取引や競合関係のみならず労働においても国境という垣根を希薄化してしまうことであろう。また、今回のコロナ禍の衝撃は、医療分野での試練だけでなく、就労慣行自体にも伝統的な規範を衝動的に浸食し、その変化に瞬間的な自律調整を迫られているのだと思う。情報技術の進化に伴う働き方の変化は未知数が多いが、働き手の絶対数と質の変化は確実に訪れる。人口構成上、団塊ジュニア世代と呼称される1971年から1974年に生まれの世代が、現在50歳から47歳を迎え社会や企業の中で中核的な存在になっている。残り10年から15年で現役世代を超え、活動余力が身体的にも、精神的にも個人差はあるにしてもピークアウトしていく。

これから後期の試験期間に入るが、大学の講義に出席する学生との接点を通じ、オンラインで孤立化された学習環境の中でも、私の学生頃と比較し当時の自分が恥ずかしく感じるくらいに、すこぶる熱心に勉強し、礼儀正しく振舞う20歳前後の彼ら彼女らが15年後には労働力の質量とも極めて制約条件がある中で、社会や組織の中核的存在になり、格闘しながら先達たちの築いた経済規模とシステムを維持拡張する役割を担わなければならないかと思うと胸が痛む。二十歳を迎えた若い方に、現役世代最終章にいる人間として、できうる限り伸び伸びと躍動できる環境づくりの用いを遅滞なく取り組む責任を感じる。京都で学生時代を過ごした自分にとって、「二十歳の原点」は、他者に対して関心を持たないといけないという強烈なメッセージを刻み付けられた歳でもあった。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2021年1月15日  竹内上人

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