目白からの便り

リーダーシップに求められる公人性

昨日、学習院大学の経営学講座でゲストスピーカーを講師としてお招きして講義の収録を行った。今年は感染症対策の環境の中でウェブを経由しての講義が続く。講師の方は、世界トップクラスの規模を有する外資系製薬会社の日本法人の責任者の方であった。製薬業界では企業規模の面でも新薬開発投資額においても日本企業はグローバル競争において圧倒的な劣勢を強いられている。

出来る限り講演者の方の人物像に近づくよう幼少期から青年期、どのような職業人生を今まで歩んできたのかを語ってもらい、その上で経営における持論やご自身の人生観についてお話しいただいた。内容はとても印象的なものであり、収録された映像記録が私自身の貴重な経営の教科書にもなると確信した。
この方は、大学を卒業して以来、半世紀にわたり一貫して外資系製薬業界でキャリアを積まれてきた。現在に至るまでいくつかの企業を経験されているがキャリアのフィールドの一貫性と一つ一つの経験の塊はすこぶる重厚なものであった。キャリアにおける一貫性のある物語が大切な事は極めて重要な育成プロセスであるが、この方はそれを実践していた。

様々な環境の中で経営者として自分自身を律する行動指針として自ら課した10の遵守原則を伺いながら、私の中ではモーセの十戒のような語感で身体に染み込んできた。組織のトップとして、ひとつ一つ丁寧に言葉を重ねていく語りを通じて「私人」から「公人」に変容していく過程を感じた。あまたな経験を通じて磨き上げられたの大切な言葉の全てを紹介できないのだが、「実ほど 頭を垂れる 稲穂かな」のスライドが差し込まれていた。謙虚であることを自戒のように静かに引用する姿に、経営者としての完成形を悩みながらも希求し続ける修行者としての造形物に触れたような心境になる。来週、この講義を聞く学生は恵まれていると思う。私の役割はこのリアルな経営者の実践哲学のひとつひとつから、学生が自ら能動的に自分に課せられたミッションや果たすべきビジョンに気づく環境をどれだけ工夫できるのかだと自らに言い聞かせる。

講義後、昼食をご一緒しながら、経営とは二つの要素が相互に機能しあって良質化するものだと改めて感じた。「良質な組織マネージメントの仕組み」と「発信者としての組織リーダーの共感を誘引する人間性」が共になければ成立しないのだ。人事の実務家として、これからも組織の仕組みを丁寧に築き上げることに苦労することと、組織リーダーの健全な選出と育成プロセスの希求の両輪をバランスよく回していくことの大切さを問いかけられた機会であった。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2020年10月30日  竹内上人

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