目白からの便り

人事・賃金・ルールの意味

早朝の都内は、この週報を書きながら、少しずつ変化し、薄いやわらかなオレンジ色を帯びた色合いの空から澄みとおった青く輝きを帯びた空間が広がりつつある。青空が占める空間が多いので、都内の今日はきっとよい天気に恵まれるのだと思う。

日本の大手企業を中心として構成され、財界の総本山ととされる経団連(一般社団法人日本経済団体連合会)のトップである中西宏明会長(日立製作所会長)は、今年の春季労使交渉において、経営側の指針として、労使の立場の違いはあるが、「日本型雇用システムの見直し」について解決すべき課題があり、労使の立場の違いはあるが、よく話し合いながら進めていく必要性について語っている。

私自身が最近、企業経営者や人事部門の責任者から人事制度の見直しについての相談を受ける機会が多くなった。私は人事屋として、「人事・賃金制度は、組織間のコミュニケーションのパイプライン(伝達媒体)」のようなもので、トップの事業成長に向けての決意と、働き手に対する期待行動の願いを反映するものだと感じている。

中小企業の場合は、賃金制度自体が存在しない場合もあり、経営者は賃金台帳を観ながら社員ひとり一人の顔を思い出しながら、時には家族の事情を思案しながら個別賃金額を定めていく。企業が成長し、所属する社員の数が多くなり、社外から多くの社員を募らなければならなくなる段階で、新しくチームに加わる働き手に、経営トップが創業以来、大切にしてきている社員に対する期待値を「人事・賃金にかかわるルール」を通じて伝達する必要に迫られる。組織が大きくなりトップマネジメントが、一人ひとりの社員と直接接点をもつ機会が物理的に少なくなればなるほど、期待値の伝達手段としてのルールの重要度は高まる。

それぞれの企業には、時間の積み重ねの中に出来上がってきた慣行やルールというものがあり、それが会社の成長やモチベーションの原動力になってきている。会社がその企業特有のキャラクターを構成している源泉を外部の人間が一般化されたファッショナブルな思想で安易に乗り換えてしまう事は自らの企業のアイデンティティーを失う危険も伴う。その個性化を喪失した時、企業特有のオリジナリティーがあいまいになり無機質な人間の集合体になる。

人事屋は脚本家のようなところがある。人事・賃金制度の改定という物語の筋道をどのように時間軸で展開していくのか、そこには映画や芝居と同様に伝えたいメッセージを受け手の感情に訴えるストーリーが必要である。優れた映画や芝居は、観客が何かを感じ取り、次の行動を促されるエネルギーを与える。人事・賃金制度もそれに似たようなところがある。

今年、退官する指導教員の最終講義が2月5日に予定されていて出席をしようと思う。今でも印象に残る先生の言葉として、『竹内くん、経営や人事はやっぱり文学の世界で、深い正しい人間理解が欠かせないと思う』と。大学の近くにあった「わびすけ」という古ぼけた喫茶店での風景が今でも脳裏に焼きついている。35年ほど前、20歳を少し越したばかりの当時の自分にはピンとこなかったが、今となってはその心根を持つことが実務家のとても大切な視点であると感じている。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

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