目白からの便り

利益共同体と社会共同体 これからの組織の在り方

大型の台風の影響もあるのか、常念岳の山頂の姿は朝の陽の光で浮かび上がっているが、穂高岳方面は、分厚い灰色の雲で覆われている。今までにない巨大な台風だという。厳しい暑さの後陣も強敵である。

人事の先輩との会話で、「ゲゼルシャフト(Gesellschaft)」と「ゲマインシャフト(Gemeinschaft)」の話になった。かつて学生時代に習った言葉である(テンニース:Ferdinand Tönnies、独社会学者)。ゲゼルシャフトは「利益共同体」、「ゲマインシャフト」は「社会共同体」として今も脳裏も刻まれている。人間集団を利益や生産性をベースにした関係で構築されているとした「ゲゼルシャフト」に対し、家族や地域といった人間的な関係をベースに構成されるとした「ゲマインシャフト」があり、企業などは利益の獲得や分配を前提とした「ゲゼルシャフト」の代表的な事例であると学んだ。

企業は「利益共同体」であると言いつつも、日本企業は終身雇用的な労働慣行、職能給をベースにした年功賃金(年功序列)、企業別組合といった人間関係性に基づく組織形態が国際企業間競争力の強さの源泉として評価された。まさに「社会共同体」としての性格を醸し出し、個人の利害関係と組織の利害関係を重複させる巧みな取り組みが試みられてきた。「社会共同体」的な組織が競争関係における企業間取引において劣勢を強いられるというわけではなく、それ自体が企業の強みになった。

近代化が進む初期段階の日本企業の職場は、企業の中に親方が軸となる小集団の「組」がそれぞれの工程の生産を担い、その「組」は親方を中心とした極めて強い人間的な結束に基づく、社会共同体的な組織であった。一方で、お互いの「組」がその生産性を競い合い、出来高賃金の分担額を奪い合う利益共同体としてのメカニズムが小集団間で機能していた。人間のもともと持つ「群れ」をなして生活をしていくという本能的な欲求と、相手との格差を競い合う闘争的な本能が併存する性格を巧みに利用したマネジメントのスタイルでもある。

これからの組織・人事のメカニズムを考える時、どの階層の集団や個人に利益共同体的な機能を持たせ、どの階層に社会共同体的な機能を持たせていくのかとという組み合わせの巧みさが、健全な闘争心の本能を維持させ、活きいきとした活力を喚起するとともに、極めて人間的な安らぎと、労働による精神的、肉体的な回復を図るシェルターとしての機能の提供を促していくのかと思う。いずれにしても組織・人事の制度設計の難易度はますます興味深い次元に突入する。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2020年9月4日  竹内上人

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