目白からの便り

感情の力がもつ可能性

今朝の都内は薄い雲で低く覆われている。今週もこの季節には似合わない暑い日が続いていた。今日は、少し天気が崩れることもあるのか気温も高くはならないだろう。

東京のアパートの壁に新聞の切り抜きがピンでとめられている。時々、ぼんやりとその存在に目を向ける。ピンを外して読み直すときもあるし、自らが身を乗り出し、眺めることもある。その切り抜きは、5年前に事業を始め時に掲載された地方新聞の一面の最下部にある「斜面」という表題で日々掲載されるエッセイのひとつである。

朝日新聞の「天声人語」のようなものであり、私は、「天声人語」、日経新聞の「春秋」であれ、時々、気になるエッセイは、無造作に壁にピンでとめている。そして壁の切り抜きは、いつしか自分の中で整理され外される。だが、この切り抜きだけ長くその役割を終えず残っている。

『31歳の女性は夫の暴力を受け離婚した。事務仕事などで9歳の長女を養うが、手取りは10万円。娘の夢をかなえてやりたいが、この生活から抜け出せる方法がない。「私の元に生まれたせいだ。申し訳ない」子供を見つめては涙ぐみ、心の中で謝る。』

厚労省の平成27年の調査ではひとり親家庭の相対的貧困率は、54.6%に達する。相対的貧困率は、国民生活基礎調査の貧困線では年収122万円(2012年)と定められている。

身の回りで起きる私たちの心を痛める現実に向き合うことは難しい。先日、オフィスへ戻る道すがら、急に振り出した雨に遭遇した。さいわい、折り畳み傘を持参していたので雨をしのぐことはできたものの、交差点で信号待ちをしている初老の男性は雨に打たれたままであった。交差点を待つ間だけでも雨除けをと迷いながらも傘を差しだした。快く受け入れてくれ少しの雑談を交わす。躊躇する感情を抑え、声をかけることができた自分自身が救われた。

社会でも職場でも、声を掛けるべき仲間は、自らの周り多くいる。日常の営みを通じて、仕事を通じて、自分以外の人の気持ちや痛みを感じられる感情能力もつこと、少しの勇気をもってその感情を相手に伝えていくことが、相手以上に自分自身にへの滋養となる。

感情能力(Emotional intelligence Quotient:感情能力の指数)が良好なコミュニケーション、チームビルディング、リーダーシップに活かされることを体系的にまた実践的に理解し、活用する講義を横浜国立大学や東北大学など複数の大学で5年ほど続けている。最近は企業でもその機会をいただく。経営者や人事担当者の問題意識の背景の深さを重く受け止めながら人事屋として長く組織内外の関係性のマネジメントに従事してきた自己責任としてできる限り果たしていきたいと思う。

人事の実務家として痛感するのは、人と人をつなぐのは、デジタルとしての情報伝達ではなく、感情を体温とともに誠実に伝えていくことによりその質量は重厚になるという経験である。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

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