目白からの便り

蚊取り線香とキャリアの希少性

早朝の伊勢はとても涼しい気温に包まれている。この週報を書き上げる時間は、陽もまだ上らず過ごしやすいので、外に置かれたベンチに腰掛け、思案しながら文字を重ねる。陽が差す前の空は、うす青く、いくつかの薄い雲が横たわる。

昨夜、屋外で夕涼みをしている時の何気ない会話で、今年の夏は蚊に悩まされないという話になる。連日の猛暑が原因とのこと。蚊が活発に活動する気温は26度から32度で、35度を超えると活動できなくなるのだという。今年は夏の主役の蚊取り線香の出番も少ないのだろう。

愛知にある実家では、今も伝統的な「金鳥(KINCHO)」の香取線香を使っている。馴染みのある緑色のもので、寝る時に火をつけ、朝まで煙を醸しだし、蚊を寄せ付けない。老夫婦の暮らしなので、電気式のものでもいいものかと思うが、やはり煙が出ないと効かないと信じている。

この金鳥の蚊取り線香、これは登録商標である。生産会社は、大日本除虫菊株式会社という。金鳥のシンボルマークに描かれている鶏は古の言葉の「鶏口となるも牛後となるなかれ」に由来する。小さな存在でも大きな組織に飲み込まれず、特徴を出し先頭を目指し、必要とされ続ける存在になるのだという意味が込められている。

個人のキャリアも、企業の戦略も、希少性が大切である。必要とされる価値に注意深く神経を割き、他に簡単に代替されない存在価値を探し出し、それを研ぎ澄ませることで価値を増大させる。

大学の講義の中でも時々、その希少性を暗示する「1万人分の1」になることの大切さを学生につたえる機会をもつようにしている。では、どのようにして、1万人分の1の存在になるか。

たとへば経理の専門家で1万人分の1といった希少性を発揮するには、相当な努力が必要だ。一方で、経理の専門に加え、語学が堪能であるとその希少性は高まる。ひとつの専門性や得意分野だけで最高峰を目指す方法もあるが、複合的な掛け合わせによってその希少性を高めることができる。
経理の専門家で1万人分の1位になることは難しいが、100人中1位相当であれば手が届きそうだ。同様に語学も100人分の1を目指す。この掛け合わせ「100×100」で、1万人分の1になれる。

自分の目標となるキャリアの領域で、必要とされる複数の専門性を有することで、「鶏口」を目指すこともできるのだ。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

伊勢郊外にて 竹内上人

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