目白からの便り

障害者のキャリアデザインの必要性と責任主体

今週、障害者の自立支援に尽力をされている方が私の研究室を訪れ、障害者雇用の実情についての課題点や今後の可能性について意見交換をする機会を得た。この方は長く障害者自立支援という事業にご自身のキャリアの全身全霊を捧げてきた方でもある。

私は人事屋でもあり、キャリアデザインについて考えたり、話したりする機会が多いので、自然と二人の会話は、障害者本人のキャリアデザインについてどのように考えていったらいいのかという話題が中心になった。私は、障害を持つ方にとってのキャリアデザインを考える時に大切なことは「需要喚起」の概念と「補完」の概念が大切だと考えてきた。現実的な仕事があり、そしてその仕事を行えるメカニズムが障害者のキャリアデザインには不可欠だと思う。

「需要喚起」の概念というのは、障害を持っている人の仕事を何とか探し出そうと言うことではなく、まず、仕事の需要の塊を創出することに専念することが大切である。障害者を起点としてしまうと生産性や成長性の視点が欠落してしまって結果的に福祉的な事業になってしまう可能性がある。本当に収支のバランスが取れていなければ障害者の努力も装飾的な価値になってしまう。この需要喚起の責任者は経営者や経営を補佐する方々に委ねられる。現実的には、担当者に放任してしまいがちの経営者も多いかもしれないが、まさにリーダーシップの発揮のしどころである。一方で、担当者は経営者がこの需要の喚起の必要性を感じさせるようにあらゆる手段を尽くすことだ。

もう一つの「補完」の概念というのはそれぞれが持っている障害に起因する足りないところに焦点を当てるのではなく持っている部分に焦点を当て、組み合わせをすることによって完成度を高めると言うことである。一つ一つの個体では、対応できないことでも組み合わせてチームを作ることによって対応できることもたくさんある。健常者ですら足りないところはたくさんある。組織は組み合わせである。

私がかつて企業で障害者雇用を担当していた時に忘れない出来事が2つあった。一つは知的障害者の専門工場設立のため、障害を持つ保護者への説明会に出席した時、一人の重度の障害を持つ母親から、「そうは言っても会社は軽度の障害を持つ人しか採用しないのですよね」という質問に対し、30歳そこそこの私がその応答に戸惑っていると、隣に座っていた障害者支援団体である手をつなぐ親の会の会長の方から、『この工場は私たちの希望の砦であり、象徴なのだから、私達で育てていこう』と代わりに答えてくれたこと。
もう一つは、この知的障害者の専門工場が開業した時、新聞やテレビで取り上げられ、それを知った女性社員から『私たちの会社はとても素晴らしい会社であるということを改めて感じて、涙が出ました』というメールをもらった時のことである。

会社も社会と補完関係にある。その補完関係を保つことによって励まされる方がいる。励まされた方は所属している組織に誇りを持つだろう。調和された状態を目指し続けることによって、新しい可能性が開けてくる。企業も私達自身も、足りないことを嘆くことではなく、それぞれの持ち味に焦点を向け、感謝し、足りないところは仲間の友情に頼りたい。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。
  

2024年12月6日

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