目白からの便り

信頼を得ること、約束を守ること

今朝の都内はどんよりとしたグレーの雲と寒気に包まれている。太陽の陽が差し込まないビル街は、より一層寒さを感じさせる。

昨日は、「長野県プロフェッショナル人材戦略拠点(一般社団法人 長野県経営者協会)」が主催する転職者情報交換会で、社会人のためのキャリアについて講演をする機会を得た。長野県の取り組みは、キャリアに関する情報提供だけでなく、生活・移住に関する支援と連動し、加えて転職した方への継続的なフォローを行うところにその先進性がある。単独企業で転職者の定着化の為のフォロープログラムを企業横断的に支えているのは、企業の人事採用部門のみならず、組織へ新たに足を踏み入れた新参者にとっても心強いであろう。さらに長野県の産業労働部の産業立地・経営支援課と企画振興部の信州くらし推進課が連携してこの活動を下支えし、重厚で安定感ある構造になっている。

こうしたこともあり、今週は、長野県内に転職した方々へどのようなメッセージを伝えたらよいかを考え続けた一週間でもあった。

長い人事経験を通じ、採用時に非常に優秀だと思われた方が、職場配属後に失速してしまうことが時々ある。調和しなかった原因として組織にも本人にもそれぞれ正当な言い分がある。双方の立場での正当性が、生身の人間関係にひずみをもたらすことになる。「信頼関係」が築けないまま時間が経過する。

新しい職場に配属された方が、今までの経験と知識を最大限活かして、豊かなキャリアを継続できることが、個人にとっても組織にとっても最も好ましいことである。組織は畢竟、人間的な関係性の中で成立している。それゆえ、その間を取り持つ「信頼」という安心して相手に自らをゆだねる相互依存の関係性がどのように初期の段階で醸成していくかが、転職者のその後の行く末を方向付ける。

「信頼」という言葉を考える時に、偶然にも今回の講演会の機会を与えてくれた方との共通の接点をもつ経営者の存在と言葉を思い出す。前職で私が人事課長だった時に、その方が様々な場面で講演する資料作成を手伝った。彼は、講演原稿の打ち合わせのたびに、「経営」の前提となるのは、複雑な理論ではなく、極めてシンプルで基本的な所作でもある「約束を守る」ということだと繰り返した。

お客様に対して、取引先に対して、地域社会に対して、従業員に対して、株主・投資家に対して、それぞれに課せられた約束を守り続けることから企業価値としての「信頼」が醸成されるのだと。

この言葉は、人間的関係においても同様なのだ。職場の上司に対して、同僚に対して、仕事を通じて関わる協業者に対して、そして自分自身に対して、「約束を守る」ことの重たさとその継続的実践の貴重さを求める。登壇し、会場に集まった転職者へメッセージを伝えながら、そのすべての言葉を自分自身に言い聞かせていた。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

渋谷の自宅にて 竹内上人

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