先日、私が担当する大学の講座に、行政の第一線で活躍されている女性幹部の方をゲスト講師としてお迎えした。講義では、ご自身のキャリア形成や女性雇用や障碍者雇用の政策立案に携わってこられた経験について語られたが、その中で特に印象的だったのが、雇用機会均等法の制定に尽力した赤松良子氏についてのお話であった。講師の方のキャリアにも多大な影響を与えたことは、言葉の語感から伝わる。講師は、かつて赤松氏の下で仕事をした経験を持ち、その卓越した行動力や信念に深い影響を受けたという。日本における女性活躍推進の礎を築いた赤松氏を、自らのキャリアを考える上での大きな指針の一人として尊敬されていることが伝わってきた。紹介された映像の中で映し出された赤松氏の颯爽とした風格は、魅力的なリーダーそのものであった。
日本の女性就業率は、かつて結婚・出産期に大きく落ち込む「M字カーブ」が特徴とされていた。しかし近年では、女性の就業継続が進み、その形は「L字カーブ」へと変化してきている。依然として管理職登用や賃金格差などの課題は残るものの、雇用機会均等法をはじめとする先人たちの努力が、社会の変化を後押ししてきたことをあらためて実感した。
迫力ある講義であったが、お話の締めくくりに「人間関係は相対的なもの」であるというメッセージを学生に残してくれた。それは、私たちの日常生活の中にも「支える側と支えられる側」の二つの側面を持ちながら生きているということである。医師であっても病になれば患者になる。店舗で、接客をしている方も、自分の買い物の時はお客の立場で店員と向き合う。サービスを受ける一方で、時には顧客に価値を提供する側となる。大学では教員として教壇に立つ私も、新しい知識や技術を学ぶ際には一人の学生になる。先生と生徒、店員と客、医者と患者という関係は固定的なものではなく、人生のさまざまな場面で入れ替わっていくものである。
社会を俯瞰してみれば、誰かが常に教える側で、誰かが常に教わる側というわけではない。誰もが多様な役割を担いながら相互に支え合い、その関係性によって社会が成り立っているのである。
経営学者のドラッカーは、「人は強みによって成果を生み出す」と説いた。しかし、その強みが価値として発揮されるのは他者との関係の中においてである。どれほど優れた知識や経験を持っていても、それを必要とする相手がいて初めて価値となる。
人間関係は単なる利害関係ではなく、知識、経験、信頼、感謝、助言といった目に見えない資源の交換によって成り立っているという考え方である。私たちのキャリアもまた同じである。キャリアとは個人が所有する資格や肩書だけではなく、人との関わりの中で培われた信頼や経験が交換され、その結果として形成されるものである。
キャリアは個人の中に蓄積される資産であると同時に、人と人との間を流通する交換価値でもある。だからこそ、自分の立場だけではなく、相手の立場から物事を見る視点が大切になる。その姿勢が新たな学びを生み、信頼を育み、次の機会へとつながっていくのであろう。
人生とは、一つの役割を演じ続ける舞台ではない。教える者にもなり、教わる者にもなる。支える者にもなり、支えられる者にもなる。その相対的な関係の中で人は成長し、キャリアもまた豊かに育まれていくのであろう。赤松良子さんも困難な男女機会均等法成立に尽力したのは、女性キャリアの当事者でもあり、女性キャリアの支援者になりたいとの強い思いからなのであろう。今日も誰かに支えられ、また支える一日になる。
今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。
2026年10月23日
*M字カーブ:女性の労働力率が結婚・出産期に一時的に低下し、その後、子育ての進展に伴って再び上昇する現象。
*L字カーブ:女性の就業率や管理職比率が出産後に大きく低下し、その後も十分に回復しない現象。
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