目白からの便り

6月1日 就活生の挑戦

6月1日は、日本の新卒採用において企業の採用選考活動が公式に解禁される節目として位置づけられている日である。政府による就職・採用活動に関する要請の中で、広報活動(3月)から選考活動へと移行する区切りであるが、現実的には就職活動が一つの峠を越える分岐点でもある。多くの学生がこの時期に内々定を取得し、進路を具体的に決定していく局面に入る。企業の採用担当者も今年の採用活動の成果を確認できる節目でもある。

今週、学習院大学での講義においてもこのテーマを取り上げた。都内ではリクルートスーツ姿の学生を見かける機会が日常化し、この時期特有の緊張感が街全体に漂っている。多くの学生にとっては内定先を固めた段階に入っている一方で、「納得内定」に向け、なお活動を継続し格闘を続けている学生も少なくない。講義の場においても、その温度差は極めて明確である。就職活動はどうしても「目の前の結果」に意識が集中しがちであるが、長いキャリアという時間軸の中で捉える視点が不可欠である。最初の就職はあくまでキャリアの出発点に過ぎないということである。いわばウォーミングアップに相当するものであり、走り始めた後に所属しようとした「チーム」や「コースが違う」と感じた場合には、軌道修正を図る柔軟性を持つことも重要である。変化の激しい現代においては、この柔軟性そのものが大きな競争優位となる。

ただし同時に、在学中に、可能な限りの準備を尽くした上でスタートすることも求められる。その準備の核となるのが、フランク・パーソンズ(*1)の提示した職業選択の枠組みである。すなわち、
1)自己理解、2)職業理解、3)理論的推論の三要素である。ここでいう「理論的推論」とは、直感や印象ではなく、「なぜ自分はその職業・企業を選択するのか」「自己の特性と職業要件がどのように適合するのか」を論理的に説明できる状態を指す。すなわち、自らの判断に対して仮説を立て、それを検証し続ける思考プロセスそのものである。実際に学生と接していると、自己理解に比して職業理解に費やす時間が圧倒的に不足している傾向が見受けられる。本来これら三要素は一度の思考で完結するものではない。

自己理解 → 職業理解 → 理論的推論 → 検証 → 再考

という循環を繰り返すことによって、徐々に精度が高まっていくものである。そして、このプロセスを回し始めると、現在履修している専門科目の意味合いが変化する点も重要である。単なる単位取得のための学習ではなく、「この知識はどの職業にどのように接続するのか」「自身の強みとしてどのように位置付けられるのか」という視点が生まれ、専門教育の価値が立体的に再認識されるようになる。

就職活動は決してゴールではない。それは自らの職業観を形成していく長い過程の入口に過ぎない。最初の選択が完全である必要はないが、だからこそ思考停止に陥ることなく、仮説と検証を繰り返す姿勢が不可欠である。そして、最後に強調したいのは、学生は企業から選ばれる存在であると同時に、企業を選択する主体でもあるという認識である。この主体性の有無が、就職活動の質を大きく左右する。

6月という節目にあたり、「どの企業に入るか」という短期的視点にとどまらず、「どのような職業人として生きるのか」という本質的問いに向き合うことが求められているのである。その手ごたえがつかめれば、企業というとらえどころのない存在に自己を単に迎合させることなく、主体的に力強く向き合うことができる。がんばれ就活生!。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2026年6月5日  

*1) フランク・パーソンズ(Frank Parsons,1854-1908)は「職業指導の父」と称される米国の社会改革者であり、近代キャリア理論の基礎を築いた人物である。著書『Choosing a Vocation』において、職業選択は㈰自己理解、㈪職業理解、㈫両者を結びつける理論的推論の三要素から成ると提唱した。この枠組みは現在のキャリア教育や職業指導の原点となっている。

(コラム週報のバックナンバー)
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(e-learningの情報 人事やキャリアに関する講座)
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(学習院大学でのキャリアデザインの講座内容)
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(note)
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