目白からの便り

留学生の就職活動が映し出す日本企業の現在地

5月も半ばとなり、日中は初夏の気温を感じさせる日と少し肌寒さを感じる日が交互に入れ替わる気候になってきているように思う。春学期の講義も本格的に動き出し、教室には新しい緊張感と期待が漂っている。留学生への教育を主として非常勤で担当している東北大学で講義後、彼らが日本での就職活動の難しさを訴える場面が増えてきた。日本で学び、日本企業で働くことを望む彼らにとって、その壁は想像以上に高い。新卒一括採用という独特の仕組み、表と裏で異なる選考スケジュール、そしてWEB適性検査やエントリーシートといった“日本式の関門”が、彼らの前に立ちはだかる。日本語の壁を抱えながら制限時間内に適性検査を解き切ることへの不安や、自分の書いたエントリーシートが本当に読まれているのかという不安が積み重なり、挑戦しようとする意欲を静かに削っていく。日本で学び、社会に貢献したいという思いを持ちながらも、制度そのものが彼らの前進を阻んでいる現実がある。

一方で、日本企業が留学生採用に積極的になれない背景には、短期離職への恐れや、社内システムが日本語前提で構築されていること、さらには「留学生は協調行動に馴染まないのでは」という根拠の乏しい思い込みが存在する。こうした構造的要因が、採用の壁をさらに高くしている。

新しい組織に人が順応していくことを研究した領域の一つとして組織社会化理論*1)というものがある。組織社会化とは、新たに組織に加わった成員が、その組織の価値観や行動規範、役割期待を理解し、適応していくプロセスを指す。

研究では、社会化の成否が離職率や職務満足、組織コミットメントに強く影響することが示されており、留学生が短期で離職する背景には、企業側が留学生という人材をよく理解しないまま社会化プロセスの制度として十分な設計をしていないという構造的問題が潜んでいる可能性が高い。組織への定着化プロセスというオンボーディングの体系化やメンター制度、多文化理解を前提としたマネジメント研修、評価制度の透明化など、社会化支援を整備しない限り、留学生の定着は進まない。こうした対象の実情に応じた環境設計への感度が鈍感であるとするならば、企業の人材戦力化の能力の程度の事態は少し深刻で、留学生に限らず、女性、障害者、中途採用者、シニア人材など、多様な人材を活かすための組織能力そのものが問われているということにもつながる。

さらに、高度外国人材の受入れに関する日本のメカニズムは、依然として供給ベースで進んでいるという問題がある。留学生が増えるから受け入れる、国が高度人材を呼び込むから採用する。あるいは、日本人の新卒採用が難しいからその補完人材として採用する。そうした発想にとどまり、受け入れ全体のプロセスを通じて、企業側の需要や活用戦略が実情を踏まえた取り組みが十分に設計されていない側面も多いのではと感じる。

こうしたギャップを埋めるためには、大学と企業の双方が責務を果たす必要がある。特に大学は高度外国人材を社会に送り出す主たる供給者として、企業が求めるスキルや組織社会化に必要な知識、異文化マネジメントの理解、職場での役割期待といった内容を教育課程に組み込み、専門教育を現実の職務に接続させる責務を負っている。明らかに日本で長年生活してきた日本人学生と比較して、日本に関する情報量が少なく、またそれに関連した体験学習も浅薄なのだから日本の企業組織の実情に即した教育内容を集中して訓練したり、教育したりすることが不可欠なのだと思う。

一方で、企業もまた需要者として、高度外国人材を受け入れ、育成し、定着させるための制度的基盤を整備する責任を負っている。高度外国人材は、日本企業にとって単なる労働力ではなく、多様化された人的資源マネジメント基盤を構築できるかどうかを測る試金石であり、この基盤を整備できなければ、人口減少とグローバル化が進む環境下で日本企業の持続的成長はおぼつかないのである。

留学生に向けた講義をしながら、日本の組織構造のエッセンスをどのように伝えていけば、前向きな受け止め方をしてくれるか思案し、工夫したりする日がまだまだ続きそうだが、彼らのわずかだが、一瞬の理解した瞬間の目に輝きが、自分自身を励ます原動力になっている。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2026年5月15日

*1) 組織社会化理論とは、新たに組織に加わった成員が、その価値観や行動規範、役割期待を学習し適応していく過程を説明する理論。この過程における主体的学習や周囲からの支援(上司・同僚)の相互作用が適応と定着に影響することを指摘。社会化の質は職務満足や離職にも関わる重要要因である。

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