7月に入り、朝はわずかに冷気を感じるものの、昼には灼熱の湿度をまとった重たい暑さに息苦しさを覚え、夕刻には突然の雨に足を止められる——そんな季節の変わり目の中で、今週、学習院大学の1学期の最終講義を迎えた。最終講義の日は、いつも「これでこのクラスとも最後であるか」と名残惜しさが胸に残る。
この1学期を通じて伝えてきたのは、自分自身を「自分株式会社」の経営者として捉える視点である。自分のキャリアを市場で取引される価値として理解し、企業という買い手に対していかなる価値を提示できるのかを考えること。市場には需要と供給があり、売り手と買い手が存在する。学生は売り手であり、企業は買い手である。買い手の視点を理解することが、自分の強みを見出す手がかりにつながる。
今学期は、さらにもう一つ重要な視点を加えた。それは、個人のキャリアにも「希少性」が必要であるという点である。ビジネスの世界では、希少性は競争優位の核心として語られてきた。その代表的な理論が RBV(資源ベースの経営理論) である。提唱者はジェイ・B・バーニー(Jay Barney) *1)。彼は、企業が持つ資源の中でも、価値があり(Valuable)、希少であり(Rare)、模倣困難であり(Inimitable)、組織として活用可能である(Organized)という条件を満たす資源こそが、持続的競争優位を生むと説いた。これは VRIOフレームワーク として知られている。
この「希少性(Rare)」の概念は、個人のキャリアにもそのまま当てはまる。誰にでもできる仕事ではなく、その人だからこそ提供できる価値を持つことが、長い人生の中で大きな力となる。この考え方は、経営戦略だけでなくキャリアデザインにも有効であると考え、講義に組み入れてきた。
著名なキャリア理論研究者であるドナルド・スーパー(ライフスパン・ライフスペース理論)も、人生の役割の積み重ねが、その人固有の価値=希少性を形成すると説く。こうした理論は、学生たちが自分のキャリアを「希少性」という視点で経営理論と掛け合わせて捉え直す際の大きな助けになるであろう。
希少性は、特別な才能だけで生まれるものではない。経験の積み重ね、興味の方向性、学び続ける姿勢——それらが長期にわたり物語の一貫性を保持し、組み合わさることで、自然とその人固有の価値が形づくられていくのである。学生たちが「希少性」という視点を手にし、自分の価値をいかに磨いていくかを考え始めたことは、今学期の成果であると期待が膨らむ。
キャリアや生活の中には、思い通りにならないことが多くある。晴れの日もあれば、突然の荒天に視界を奪われる日もある。しかし、自分株式会社の経営者として市場を見つめ、価値の源泉を理解し、どこに投資すべきかを考えることができれば、環境が揺らいでも迷いなく悪天候を楽しみながら歩むことができる。がんばれ、将来の社会人!
今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。
2026年7月17日
*1)ジェイ・B・バーニー(Jay Barney)は、企業の競争優位を資源の特性から説明する RBV(Resource-Based View) を提唱した経営学者である。1991年の代表論文 “Firm Resources and Sustained Competitive Advantage” において、価値・希少性・模倣困難性・組織的活用可能性を備えた資源こそが持続的競争優位を生むと論じ、VRIOフレームワークとして広く知られる理論を確立した。
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