目白からの便り

障がい者雇用

みなさま

今朝の都内は、秋のような心地よい空気に触れる感覚である。一週間前の金曜日と比べるとまったく異なる季節の匂いに包まれている。

今から25年前のこの時期、私は、長野県の松本市内にある事業所で行っていた知的障がい者雇用の説明会の会場にいた。前職のセイコーエプソンで新たに設立を試みた知的障碍者の方の雇用を拡大する為の専門クリーニング工場(クリーンルームで着衣する防塵着のクリーニング)設立について御親族や支援団体の方々で構成する「長野県手をつなぐ親の会(現在:長野県てをつなぐ育成会)」の方々に新しく取り組みを始める事業の概要をと採用選考の手順についての説明をしていた。
民間企業は、社員雇用において、一定数の障がい者を直接雇用することが法律で定められており、その一環で当時のエプソンも様々な雇用拡大の取り組みを行っていた。

【民間企業や公共の行政機関は従業員の規模に応じて一定数の障がい者を雇用しなければならないことが法律で定められている。民間企業は常用雇用労働者に対して現在は2.0%、来年からは、その率が2.2%に引き上げられる。更に平成33年には、2.3%になることが確定している。】

私が人事部に在籍し、障碍者雇用に取り組み始めた時、実務的にも、精神的にも支えになった特例子会社があった。博報堂DYアイ・オーとリクルートプラシスというそれぞれ、広告業界、人材ビジネスの業界で事業展開を行う会社が設立した特例子会社である。
先日、四半世紀も前に自分が取り組んだこの障がい者雇用の促進に関して、この博報堂DYアイ・オーと所縁のある方と偶然お会いした。九段の私のオフィスにも来てくれた。当時のことを思い起こすきっかけともなった。

前職の会社にも特例子会社があったが、当時の心境を素直に表現すると、静かに保護され、自らの存在を積極的に外に示していくという空気を持たない立場にあった。
しかし、私がこの東京にある特例子会社を訪問した時強い衝撃をうけた。同時に何かをしなければならないというエネルギーを輸血されたような感覚になった。マネジメントを行う管理監督者の方も、働く障がい者の方も、社会に対してとても強いエネルギーとメッセージを積極的に発信していたのである。
「どんな仕事が適切でしょうか」という当時の私のおぼつかない問いかけにも「何でもできますよ」と返ってくる。次の質問がとても恥ずかしくなるような力強く、笑顔で。

知的障がい者雇用の雇用説明会の現場にあって、出席されたお母様からの質問で、『やはり採用の基準は重度障がいの手帳をもっていても、作業効率が高い軽い障害の方だけなんでしょうか?』という問いに対して言葉につまってしまった。ご両親からすると切実な気持ちが伝わる。
説明会の際、隣に座ってくれていた当時の手をつなぐ親の会の代表の方が、説明に戸惑う私を助けて言葉をつないでくれた。『この地域に合って大きな企業が知的障がい者の為の働く場をつくってくれること自体が、私たちの希望の星です。みなさんでこの希望の星を大切に育てていきませんか』と。私は横でその言葉を聞いていて、気持ちを平静に保つことが難しい状況になった。設立に向けて、その時まで重度障害者多数雇用事業所の複雑な適用申請や認可プロセス、クリーニング事業を行うためのクリーニング生活衛生同業組合や近隣の河川環境保護団体からの同意書の取得、また、そもそも、当時のエプソンとしては初めて知的障がい者の雇用に踏み込むこともあり、社内説明と支援・理解の時間の積み重ねが走馬灯のように脳裏を駆け回った。

本当に気持ちが沈んだ時には、自分を励ましてくれた人のことを思うとよい。いくらそれが遠い昔のことであってもきっと、前に進む勇気だけでなく、これから、何をしなければならないかをやさしく思い返してくれるはずだ。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

九段にて 竹内上人

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