目白からの便り

自分以外の人の力(ちから)をかりる デジタルリテラシー

企業研修を自分でも講師として研修の現場に立つ。大学とは異なり、職業によって生計を立てている人たちとの会話は自分自身の仕事に対する感性を磨く上で不可欠な機会でもある。学生との対話では感じられない仕事と様々な葛藤を抱きながらも真摯に対峙する働き手のリアルを体感できる。

そうしたキャリアに関する研修を行いながら自分の中でも考えが深まることも多い。ここ数回連続してキャリアに関する研修の場でメッセージの中核においたことがある。それは、自己の能力蓄積を個人のスキルや知見・見識だけに止めるのではなく、如何に周囲の力を借りることができるかという総合的な可能性をひとりの人間がどれだけ持てるかということである。

単に多くの人を知っているということではなく、ひとり、ひとりの方と信頼関係の絆で結ばれているかどうかということが問われる。極論をすると、仕事はひとりでは完成し得ないのだ。たとへ職人であっても、研究者であってもモノや価値を生み出す過程においては、有償無償の形態は様々であるが誰かの援助が必要である。大学の研究者の方とお話をする中でその方が発した言葉が心に残る。「同じ領域で研究している人との語り合いこそ次の研究に向かっての励みになる」。切磋琢磨する中で次の目標にも出会うし、難題を解きほぐしていける。

仲間づくり、ネットワークはとても大切だ。急速に進んだDigital Network。物理的な交流を超えた世界が進展する。そうした環境の中で「デジタルリテラシー」という概念は、単にITの知識があるのではなく、ITを通じて人と交流する能力が求められるのだと思う。自分の力量を超えた仲間の絶対量がその人の可能性を広げていく。そこには経済的なやりとりを超えた世界がある。

誰かが自分に仕事を頼む時、その人個人が持っている経験や能力だけではなく、その人につながる多くの良質な仲間の存在を無意識のうちに感じて信頼を寄せていく。自分を支えてくれる仲間を得る源泉は、損得勘定や経済的な恩恵の有無だけでなく、それ以上にその人とつながることが、第三者にとって将来のキャリアの可能性を広げてくれるという予感からくる。あるいは何か自分が困った時に必ずこの人が手を差し伸べてくれるという安心感による。それは、組織における階層的な上下関係を超える。

良識な集団としてのキャリアの関係性を構築するためには仕事に向き合う覚悟が求められる。それは、一つ一つの仕事が自分以外の第三者にとって価値があるかということを問い続けながら仕事を積み重ねることによって得られていくのだと思う。

こうして考えるとキャリアを学ぶ基礎になることは、人間としての在り方に行き着いてしまう。

その答えを探すには自分自身と対話する機会と時間を持つことしか得られない。時間がかかる地味で面倒な作業でもある。しかしながら自分自身との対話の時間が多い人は、人に対する思いを寄せることができるのだと。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2021年11月5日  竹内上人

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