帝国データバンクの調査結果で、2022年度にコンプライアンスに起因した企業倒産は、300社になり、2005年の集計開始以来、過去最高の倒産件数となった。それぞれの企業は、企業統治(コーポレートガバナンス)や内部統制(インターナルコントロール)を強化しているにも関わらず、こうした組織内部の統制力は低下していく。
問題になる領域は、不正会計(粉飾決済)、品質偽装、不正受給、労働環境の脱法行為や過重負荷労働の強制、食品衛生問題、個人情報流出など多岐にわたる。マスコミに取り上げられ、それぞれ記憶に残る。
発覚の発端は内部告発によるケースも多い。インターネットの普及とともに組織内と組織外との垣根が低くなり、情報が流動化しやすくなった環境変化も影響する。
内部告発で明るみに出るころには事態の深刻度は致命的なところまできていることが多い。もう少し早く、組織内で修正機能が働いていればと思う。現場では極めて良心的な「働き手」でありながら、組織の論理や上司への過度の忖度により、冷静な判断を喪失し是正タイミングに後れを取ってしまう。規定やルール化など制度的な規制には限界がある。最後は人間系の抑止機能が正常に働くか否かにある。
こうしたことを考えると、働く一人ひとりが深く考える習慣を持ち、キャリアの自立性が高ければ、客観的で倫理的な判断が組織のあらゆる階層で正常に機能し、組織にとって致命傷にならずに未然に自浄作用が働くかもしれない。「働き手」にとっても良心の呵責に耐えながら、偽装や不正を看過することなく、正しく上層部に意見具申ができる倫理観を内在するキャリアの自立性を促すことは、組織にとっても有効な戦略につながる。
それでは、どのようにしたらこうした「働き手」の段階でのコンプライアンス力を確保するキャリアの自立性を滋養できるのであろうか、当然のことながら、コンプライアンスに関する基礎的理解の学習と社内の通報システムの仕組化と継続的な周知は必須であるが、それだけではこの問題は解決しない。個人が踏みとどまる倫理観の最後の一線では、知識の境界線を超えてしまうからだ。上司の立場であっても、部下の立場であっても、組織に所属する「働き手」の一人ひとりが、最後の一線を踏み外さない倫理観の形成は知識の絶対量でなく深い教養によるのだと思う。組織の論理に臆することなく、組織と個人の健全な一線を保つ「働き手」のキャリアの自立性の養成は、組織自体を救う不可欠な投資になる。
今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。
2023年8月4日 竹内上人