目白からの便り

チーム成立の瞬間

1月下旬になり大学の後期講義も終了する。今まで学習したことを個人やチームでまとめて発表し、理解度を評価する。10枚から20枚程度のスライドにまとめあげる共同作業は、学生にとっても良い経験になる。学生自身がチーム活動の疑似体験をしながら、自分自身のリーダーシップの水準を知ることになる。その意識を深めるために、チーム活動の後に必ず、リーダーシップスタイルの自分自身のレビューを司令官型、親方型、参謀型、支援型の4つのリーダー像を設定して評価してもらう。

この時期、学生の発表を聞きながら、忘れられない出来事を例年思い出す。それは、チームビルディングの講座の発表で事件が起こった。チーム発表のプレゼンを最終的にまとめ上げる役割の学生が、体調不良で出席できなくなったのだ。チーム発表の順番を最後にしたのだが、その学生からの応答は途絶えている。本人は、メールで送ったようなのだが、仲間のチームメンバーにはうまく受け取れていない。

そこからチームの緊急対応が始まった。この日のチームメンバーは欠席した男子留学生を除き、一人の日本人の男子学生と3名の女子留学生で構成されていた。私は教室の後列で、他のチームの発表を聞きながら、スライドを失ったチームの様子を観察していた。他のクラスメートのチーム発表を聞きながらも、相互で俊敏に打ち合わせをしている。緊迫感は凄まじかった。私は他のチームの発表を聞くようにとは指示しなかった。恐らく他のチームのメンバーも事態を承知しているので、気にせず自分たちの発表に集中している。そして、スライドを失ったチームの発表の順番の少し前に彼らの顔つきに安ど感と明るさがよみがえった。

発表は、部分的に分担作成して手元に残っていたスライドを急遽寄せ集め、プロジェクターで投射しながら、足りないところをメンバーが交互に表現豊かにスライドなしで発表した。危機に直面した組織でありながら、団結心とスライドなしで表現するために、個々の熱量はどのチームより熱く、沸点寸前だった。

授業が終わった後、そのチームの笑顔に満ちた雰囲気はとても一体感があった。危機を一緒に乗り越えたことからくる利益共同体としての仲間意識が醸成されていた。組織には、「リーダーシップ(Leadership)」だけでなく、それを相互に支える「フォロワーシップ(followership)」の良質さも不可欠である。そして、何よりチームとして何かを成し遂げる一体感、「メンバーシップ(membership」にたどり着く。その時に「私(わたくし)の利益」は薄くなり、共同の利益を享受する。

後日、親しい先輩と食事をしながら、「パイは焼いてから食べよう」という話で盛り上がった。組織で仕事をしているとよく出会う光景でも有る。パイ生地をこねている時に焼けてもいないパイの取り合い合戦や、身の丈を超えた大きさのパイをこしらえようとする滑稽さを思う。今回の危機に直面した学生たちを観察しながら、「その話はまず焼いてから・・と」、チームとしての成果を最優先して活動するメンバーシップの大切さを再認識した。チーム一体で成し遂げたら、パイの分配も冷静になるものだし、やはりパイを焼き上げなければ何も前には進まない。途中で逃げ出さず、小さなパイでもまずは最後まで焼き上げることが、個人にとっても、チームにとっても次へのステージの糧と成る。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2023年1月27日  竹内上人

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