師走にはいり、時間の速度が加速していることを感じる。年内になんとか身近なことを整理して、新しい年を迎えたいと願う季節でも有る。現在、カタールで熱戦が繰り広げられているサッカーのワールドカップに釘付けの方も多いであろう。現地で観戦している日本人サポーターの試合終了後の観客席のゴミ拾いや清掃の話題も注目を浴びる。また、清掃をすることで、日本チームの一員としての組織エンゲージメントを自ら確認しているのかもしれない。
愛知県にある自動車関連の製造会社が運営する技能研修所を訪問した時、教室の正面に貼ってあった標語に目がとまった。そこには、「来た時よりも美しく」と黒い毛筆で書き記されてあった。学園長の方に尋ねたところ「仕事の基本ですね、基本的な所作の心の拠り所でもあると言ったほうがいいかもしれません」と温和ではあるが、確信に満ちた語感で話された。施設内のあらゆるものは工場の現場で使われていたものを再利用されていたが、教室や実習室の清掃が行き届いているばかりでなく、一つ一つの備品の置かれ方も整然としている。長く使い込まれた一つ一つの什器類や工具 事務用品の陳列は、芸術品を鑑賞している錯覚に陥る。
製造業でよく言われる5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)や3定(定品、定位置、定数・量)*1(後掲)の徹底は、ものづくりの現場の基本中の基本である。ものづくりの現場でなくとも事務所やオフィスでも同様なのであろう。事務所の山積みされた書類は論外でもあるが、見えないところでも、ネットワークサーバーの中の自由気ままに保存され、担当以外の方が、その必要な書類に行き着くには、迷宮伝説のミステリーツアーのようになっていることもしばしばある。
そんなことを思って学園長の話を聞いていると、大学を出て、人事に配属され、間も無く任された会社紹介ビデオを撮影していた時の風景が急に脳裏に蘇ってきた。映像撮影のディレクターの方から「良い工場ですね」と言う言葉に続き、『優れた工場は、職場がきれいなだけでなく、リズム感があるんですよ。働いている人が楽しそうに踊っているようでしょう』と、入社2年目ほどの私に語りかけてくれた。この「リズム感」という言葉が30年たっても記憶の中に沈殿している。良い職場には、リズム感があると言うすこぶる抽象的な言葉が映像の現場を長年経験者されてきた方の端的な表現方法なのだ。
整理・整頓をしたり清掃したりといった教義的なスローガンの本質はどこにあるのかと自問する。それは仕事をするときに自分のためだけではなく他者にとっての最大限の気遣いであり、思いやりの実際的な行動なのであると今になって気づく。そうした職場は仲間に対する敬愛の念に基づいた優れた立ち居振る舞いを一人一人が基本作法のように身につけている。他者に対する敬意を持った気遣いがあれば、職場の中のコミュニケーションは良質なものになるに違いない。組織としての協働性も高まる。働く一人一人が、そうした概念まで磨き上げられた時に職場の完成度は頂点を極める。
今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。
2022年12月 2日 竹内上人
*1 <5S 3定>
「5S(ごえす)」
整理(せいり、Seiri) いらないものを捨てる
整頓(せいとん、Seiton) 決められた物を決められた場所に置き、いつでも取り出せる状態にしておく
清掃(せいそう、Seisou) 常に掃除をする
清潔(せいけつ、Seiketsu)3S(上の整理・整頓・清掃)を維持し職場の衛生を保つ
躾(しつけ、Shitsuka)決められたルール・手順を正しく守る習慣をつける
「3定(さんてい)」
⇒誰が見ても一目でわかる⇒探すムダ/紛失のロス/作業の品質向上/作業の効率化
定品(ていしな):決まったものを置くこと
定位(ていい):決まった位置に置くこと
定量(ていりょう):決まった量(数)だけ置くこと