目白からの便り

経営戦略と次世代後継者育成 過去の肯定的な評価

次世代の人材育成について、企業経営者の方から話を聞く機会が増えてきた。経営の補佐層というべき部門長や課長をどのように育てていくかは、経営者にとってとても気がかりでもある。前職の人事部に在籍していた時に、次世代の経営幹部を育成するプログラムの設計と運営に5年ほどかかわった。経営理論の検証に向き合う研究者と、組織の経営の責任を担う役員と、次世代の選抜されたリーダーの三者の視点で構築したプログラムに特異性がある。次世代の人材を育てながらも、学術的な現場主義の貢献と、経営チーム醸成、次世代リーダーの探索と育成をその目標に置いた。

自分自身が、経営や個人としての経営者のあり様について、深く考える時間であった。ある時、日本で重鎮と評される経営学者との会話の中で、深く脳裏に刻印された言葉がある。「竹内君、経営戦略は漠然とした願望ではなく、過去の積み重ねの延長線上にあるものだし、あるべきもの」だと。経営戦略は、将来のなりたい姿、到達目標を描いて、そこに向かう為の変革シナリオではないのか。この経営学者の言葉の意味を理解するまでかなりの時間を要した。

転職を試みようとする候補者の方との面談でも今後の方向感の設定に戸惑いを感じられている方が多い。私は、単なる経歴の棚卸ではなく、今までの経歴の本質や概念を考えることを促す。これにより、現状を単純に是認する保守的な考えではなく、過去の時間の積み重ねの意味を深く考え、整理し、連続性のあるひとり一人にとって特異で且つ重厚な価値の存在にたどり着く。

働き手である私たちは、これを原点として、自らのキャリアの価値の最も適切な買い手の探索作業を惜しみなく苦労し、キャリアの買い手の困りごとに適応する仕様に修正する。この適応プロセスは限りなく積極的な自己肯定の延長線上にある。キャリアデザインと経営戦略の策定プロセスは、同じ道程を踏まえるべきだと考えるようになったきっかけだった。その深い思考と格闘を背景に、創造的で、非連続的なチャレンジやイノベーションが輝く。経営者であれ、企業人であれ、公務員であれ、研究者であっても自身のキャリア設計には、戦略が不可欠である。

経営者にとって、自社の会社の成長の中核となる将来を託す人材は、自らの会社の経営戦略や大切にしてきた企業風土と価値観を自分自身と同じように肯定的に感じ、行動する人材の育成は最大経営課題である。さもなければ企業として築き上げた連続性が失われるからだ。ただ、言語を超える過去の経営の積み重ねを丁寧に伝え、将来を切り開く人材育成につなげるプロセスには時間がかかる。大切なことは、小規模でもできるだけ早く着手することである。そして、組織の長としての経営者やリーダーは、次世代の人材との交流に面倒でも時間を割き、積極的に関わるべきである。その過程で経営者自身も深く考える機会を与えられる。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2022年9月23日  竹内上人

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