大学の前期(春季)講義では、学生に自分自身をひとつの事業部と見立てて、「Business I(ビジネス アイ)」 という事業計画書を策定するプログラムを取り入れている。8月初旬の最終講義で、7つの項目で構成される計画内容について、生徒それぞれが立てた自身のキャリア計画として完成し、前期講義が終了する。ここ8年ほど繰り返し講座内容の改善更新をしてきた。4ケ月ほどの講義は3つの部分に構成されている。最初の5つの講座は、日本的経営や人事のメカニズムがどのような構造になっているかの学習、次の5つの講座では、自身キャリア分析を踏まえて、日本における就職面接形式の実践的体験を人事採用担当者の役割も演じながら、個人面接、グループ面接、グループディスカッション面接の理解を深める。実践体験を通じて特に留意して指導するのは、キャリアも経済学的には「取引」されるという概念を学生にもたせることである。需要と供給の関係でキャリアの取引が成立する。当たり前のことであるが、若い時期の視点はどうしても供給側に偏り、需要側のニーズに無頓着になりキャリアの押し売りを繰り返す傾向がある。そして、最後の5つ講座では、こうした日本的経営の環境と、面接実践での相手目線での人材評価の気づきを踏まえた上での、自分自身の事業計画書であり、キャリアプランでもある自分事業部の計画書「Business I(ビジネス アイ)」を作成する。
人事屋として、企業の目標管理であるMBO(Management by Objectives)やOKR(Objectives and Key Results)の味気ない策定プロセスも少し工夫したほうが、従業員である作成者本人のモチベーションも高まるのではと思う。人事もエンターテイメント性が必要なのだ。
自分のキャリアを事業に見立てて、自身のコアコンピタンス(自己の経験や強み・弱みは何か?その強化策と克服策は?)、業界や職種などのキャリアドメインと役割の選択(どこで、なにをするか?)、リーダーシップのスタイル(どのように組織で立ち居ふるまうか?)、困難な局面に向き合った時、人に良質な影響力を投げかける行動原則やパーソナルブランドについて考え整理する。学生の段階から自身のキャリアビジョンを明確に持ち、その目標に向けての活動計画を持たれている生徒もいて、感心することが多々ある。自身の取るべき道をしっかり見据えて着実に歩めば、「Planned Happenstance Theory 計画化された偶発理論」( J.D. Krumboltz, 1999)の実体験も必ずできる。
生活や仕事において、自分にとって不都合なことも多くある。晴天の時もあれば、大荒れの天気の時もある。仲間との関係で誤解も生じる。そうした環境変化に直面し、進むべき視界が悪い時も、自分自身が歩むべき目標とそれを達成するための羅針盤となる事業計画書をもっているだけで、迷いも少なく前に進むこともできる。経営も、個人のキャリアもビジョンと長期的な計画は大切なことだと学生の発表を聞きながら改めて感じる。
キャリアにおける羅針盤を持つことは、いくつになっても遅すぎることはない。与えられた歳に応じて、進路を明確に定め、そのための準備を繰り返し、EQ:感情能力(D. Goleman,1990)を鍛え上げ、繰り返し練習と鍛錬を積み重ねながら航海を続けることができればと願う。これから50年の航海も、残り10年の航海も、それぞれのライフスタイルに応じて最も適したキャリア上の羅針盤をもつことは、日々の生活自体を確実に良質なものにする。
今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。
2022年7月22日 竹内上人