目白からの便り

コミュニケ―ションの三段階理論と礼儀

今朝の都内は夜中に雨が降ったのか路面が濡れている。今年は春先に初夏を感じさせる気候が続いたかと思うと、長い梅雨の時期に入ってしまった。暑さには覚悟が必要だが、夏の到来が待ち望まれる。
 
企業研修のプログラムの打ち合わせをする機会があり、グローバルコミュニケーションで必要な要件は何かということについて考える機会があった。グローバルという冠がついているので、そこには言語(端的には語学力であり、英語の力量を指す)の問題と、多様性(Diversity)を受け入れる能力が思いつくのだが、コミュニケーションを担う力という観点で考えてみると、そんなに問題は簡単ではない。私が企業研修や大学の講義のプログラムを組み立てる際、構成するのは、「コミュニケーションの三段階理論」である。

私は、コミュニケーションが成立するには、3つの段階があると思う。ひとつめは、「伝える力」である。これは件の企業研修のプログラム設計において、海外にある販売・製造現地法人とのビジネス上のコミュニケーションや、ガバナンスを行う上で「英語力」が日本の企業人には総体的に欠けているという切実な危機意識からくる。伝えるための言語の習得意識の喚起は不可欠である。また、日本人同士であれば、敬語も含めた話し方や表現力もこの「伝える力」に入る。
また、日本国内において多国籍な人材とのコミュニケションツールとしての「やさしい日本語」のビジネス適用も最近の強い関心事である。

2つめは、相対する人間関係における「感受性」である。相手から発信される微細な心情情報を受信、解析し、自己の感情を最適な状態にマネジメントする能力である。相手の心の変化を瞬時に且つ的確に読み取り、自己の心情をコントロールし、適切に対応させることができる感情のマネジメント力である。こちらは幾度か大学での講座の内容を通じてご紹介しているEQ (Emotional Intelligence Quotient:こころの知能指数)の卓越性に裏付けられる。EQ以外にもMBTI (Myers-Briggs Type Indicator) のように性格を16タイプに分けその違いと特徴を理解し活用するといったものもある。どれも適切に取り入れ活用すると「感情の優れた使い手」となり、優れた話し手となる。

3つめは、外交的関係性(Diplomatic Relationship)を理解し構築する能力である。相手にとって自分が有益な存在になるような関係性を演出する能力である。自国の首相も外交、内政で苦戦しているのであろう。3つのコミュニケーション能力の中で最も難易度が高い。①相手の困りごと、立場を理解し、同じ視点で考えること、②相手の期待値に適合する価値を提供できる要素を自己の保有能力や関係資本(人脈・ネットワーク)から抽出し提供すること、などである。前職で次世代リーダー育成のプログラム担当をしていた時に一橋大学の経営組織論の先生が「ディプロマシー:Diplomacy」というボードゲーム(第一次世界大戦前の緊張した関係にあるヨーロッパを舞台にした覇権を巡って争うボードゲーム)をプログラムに取り入れていた意図を今になって深く理解した。

ただし、「コミュニケーションの三段階説」はあくまで技術的な領域である。人間である以上、人間的な関係を良好に築く上で基礎となるのは、他者に対する礼節であり、礼儀である。「礼」を逸してしまうと技術はいくら鍛錬しても機能しない。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

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