目白からの便り

採用 痛恨のエラーと心理的安全性

先日、地下鉄のホームでパンをかじりながら不安そうにスマートフォンの画面をチェックしている明らかに就活中かインターンシップ活動中の学生を見かけた。食事をきちんととっているのかと心配するほど細い体つきであった。その瞬間、胸に絞られるような感覚が蘇る。

新卒の採用において、私には今でも悔やまれる痛恨のエラーがある。若い頃、採用担当で地方の工業系大学院大学の男子学生を不採用にした。彼はとても成績も良く優秀な学生であった。さらに人柄もとても好感が持てた。ただ幼い時に難病認定された重い病を経験した履歴があった。今では完治し、再発は無いだろうと主治医から言われていることを面接の時にはっきりと私に話してくれた。研究が好きで遅くまで実験を繰り返していると言う。だから心配しないでほしいと。会社に入ってもしっかり働くことができると語ってくれた。

しかし私は彼の採用を見送った。私は再発を恐れ、できれば実家から通える企業に就職したほうがいいと判断した。あの時の判断は間違っていたのだ。採用担当者としての失敗を恐れ、できるだけ無難な人材を採用しようとしたのではないか。パンをかじりながら懸命に就活をする学生の姿を見てあの時の男子学生は今どうしてるかと思う。30年以上も前の話なので今は50歳を超えているはずだ。きっとどこかの会社か研究機関で優れた技術者になっているのだと願う。

組織における心理的安全性(psychological safety)という心理学用語がある。ハーバード大学の組織行動学の研究者のエイミー・エドモンソン先生(Amy C. Edmondson)が提唱した概念である。急成長したIT企業の成長の一要因としても最近は取り上げられる。所属する組織に対する安心感が、挑戦的な意欲を喚起する。

必死で就職活動をする学生を前にして、失敗を恐れ無難で保身的な判断をした当時の自分を後悔する。きっと今でも私の体の中には保身の種子が眠っているのだと自戒する。それが再び繁殖しないように、人間が持つ可能性に目を向け続けるべきだと自分自身に言い聞かせる。そして人事を担当する者として、組織の構成員の挑戦意欲を喚起し続けるために、個人の仕事のミスを組織の資産として積極的に共有することに躊躇しないために、どのように心理的安全性を共有してもらえるかという人事施策や環境づくりを考え続けなければならないと思う。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2021年10月15日  竹内上人

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