目白からの便り

自ら感じ 自ら動け

早朝の名古屋の空は梅雨空のような分厚い雲で覆われている。本格的な梅雨に入ったのであろうか。

先週の金曜日の夕方、リーダーシップを考える時に必ず思い浮かぶ経営者の方の訃報を受け取る。
大学を卒業して、はじめての仕事を通じて指導受けた方でもあった。享年94歳。多くの人に影響与えていた。実家が長野市内の酒店であったこと、信州大学工学部の前身を卒業され、当時の諏訪精工舎に入社されたことを思い出す。

私の最初の職場は、腕時計の製造工場だった。彼は人間味あふれる人柄で、腕時計のデザインや設計などのスタッフ職の方だけではなく、製造部門の多くの社員から慕われた。彼がよく口にしていた言葉は、「自ら感じて、自ら動け」であった。自分の考えを持ち、どのようにすれば実現できるか、誰と協業すれば道筋が描けるか、他者に頼らず主体的に行動することを常に示唆されていた。「どうしたらいいでしょうか」と言う言葉は彼の前では決して出すことができなかった。その言葉を発した途端に自分自身が自ら崖の下に落ちていくような感覚にとらえられた。

何か失敗した時でも、他責にする言動を最も嫌っていた。どのようにこれから取り組みその失敗を挽回するかの意思の方が、彼の価値観では圧倒的に上位であった。「最終的な責任は僕が取るのだから、君らは挽回の為に今何をすべきかを考えることだ」と。

40年前、事業所がある市内で最も大きなホテルで行われた永年勤続表彰の会場で、立食形式に不慣れな製造の方々の戸惑いを機敏に察知し、テーブルに置かれた料理を床に並べさせ、車座になって、その長年の労に満面の笑みで感謝を伝える姿と、取り囲む年配の社員の嬉しそうな顔は、今でも鮮明に蘇る。私が初めて見たリーダーシップの原点の光景であった。こんな所作は自分には到底できないと思った。

彼は華やかなスタープレイヤーを好まなかった。いつも社長室のドアが開いた状態であった。そこには相田みつをの言葉が額縁に入れられ掲げられていた。

「花を支える枝 枝を支える幹 幹を支える根 根はみえねんだなぁ」

社長室に入る社員が、その額縁を見ながら、自戒し、励まされていた。人材育成は人事屋としてテクニカルな作業であるが、人物を育てると言う事は、次元が違うことだと若いながらも痛烈に精神の奥底まで沈み込む。

「自ら感じで 自ら動け」

主を失ったこの言葉を、彼の人を思いやり、励ます精神とともに、私自身ができるだけ多くの人に伝えたい。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2021年6月18日  竹内上人

「自ら感じて 自ら動け」
心からの感謝と敬意を込めて
竹内上人

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