目白からの便り

キャリアアンカーとアナログレコード

早朝の青山の空は重くどんよりとした厚い雲に包まれている。日本全国で天候が荒れ、日常生活でも不便を覚えている方も多いのかと案じられる。

先日、妻の実家にある古いレコードを聞く。レコードのジャケットには「MISSLIM /YUMI ARAI 」と記されている。1974年、今から47年前のレコードである。久しぶりにアナログの音感を感じる。その歌詞の新鮮さに驚く。さらに驚嘆したのは、47年前に作詞をした本人の年齢が18歳であるということだ。時代の変化を越えて、彼女の持つ本質的なメッセージは私の弛緩しきってしまった感情に強烈に突き刺さる。

キャリアもその核となるところは半世紀前の時代でも今でも大きく変わることがないのであろう。働き方のバリエーションは確かに変化をしているが仕事に対して人が持つ感情は今も昔も変わらない。同様に人事制度改革に関わるファッショナブル(流行的)な言葉や改革論議が飛び交っても、人事労務管理の本質は変わらない。

それは、働く人たちが所属する組織の指揮官や同僚との信頼関係、自らの職務に精勤努力することを自分の成長として前向き感じ取れる感覚を肯定する就労環境であり就労ルールの良質性に起因する。流行する言葉の裏側にある背景を冷静に読解する力が私たちに求められる。

慌てて表面的な対応をしないことが肝要だ。制度やルールを変えなくても現在の制度やルールの価値をもう一度紐解き丁寧に読解し、運用の可能性を探りきることによって突破口を開けることが多い。

この4月から、キャリア理論の講座をWEBコンテンツで開発する為に信頼しているビジネスパートナーの方と協業して準備を進めている。講座のテーマとしては「キャリアアンカー」を予定している。7月以降でお知らせできるかと思う。キャリアアンカーという概念を創出したのはエドガー・ヘンリー・シャイン先生(Edgar Henry Schein 米国心理学者)であり、大学、人事部門の方やキャリアコンサルタントの方にはなじみの先生でもあり論理でもある。

その理論の構成は以下の8つのキャリア上の基軸になるアンカー(船の停泊で使う錨:いかり)で構成されている。語感だけで判断するのは少し危険だがご自身の親和性のある言葉は以下から探し出せるであろうか。私のことを言えば、その語感から心惹かれるアンカーは、「専門・職能別能力」と「奉仕・社会貢献」である。35年間以上も人事の仕事をしてくると自分の錨も海底深く沈み込んでいるのかもしれない。それが利点にもなり、弱点にもなることを謙虚に受け止めることも必要である。

1.専門・職能別能力(Technical/Functional Competence)

2.経営管理能力(General Managerial Competence)

3.自律・独立(Autonomy/Independence)

4.保障・安定(Security/Stability)

5.起業家的創造性(Entrepreneurial Creativity)

6.奉仕・社会貢献(Service/Dedication to a Cause)

7.純粋な挑戦(Pure Challenge)

8.生活様式(Lifestyle)

 

レコードを聴いていてもう一つ感じた事がある。曲を気ままに飛ばして聞いたりすることができないことだ。レコード自体の曲の組み立てに物語がある。この組み立てにより作者のメッセージをより端的に聴き手に伝える。このことは一人ひとりのキャリアの履歴にも同じことがいえる。自分自身のたどってきた職務上の履歴をもう一度振り返ってみると、これから取り組むべき到着点を読み取れる。そこにアンカー(錨)の所在地のヒントが隠される。学生であっても、70歳を過ぎても自身のアンカーの所在を意識することは大切である。

作詞、作曲、演奏活動をしてきた彼女自身も経験を通じて、深く人間の心の奥底にまで沈殿した真実を素直に、ぶれずに表現しているのであろう。その真髄に錨を下すと少々の風雪や雑音にも平然とやり過ごすことができるのかと思う。膨大な個々の社会概念(Ordinary Knowing)を積み上げながら、恋愛や人間関係の論理(Theory)の妥当性を検証し尽くして、彼女なりの独特で強固な論理(Theory)があるからこそ、その色合いは衰えを感じさせないのであろう。彼女の楽曲は、過去も未来も説明できる完成度の高い抽象性に到達している

学生であっても経験を積んだ働き手であっても同じだ。キャリア設計の基本的な考え方は過去の歩みの冷静な振り返りにあり、そこから根底に流れている自分自身の本質的なメッセージを読み取り、次に向かっての曲目を決める作業の繰り返しなのだ。今は自宅で、「ねぇ、アレクサ(Alexa)、松任谷由美 お願い!」とAMAZONの端末に呼びかけると素直に彼女の曲を無作為に選んで流してくれる。デジタルに麻痺した感性を覚醒するには、時にはアナログに触れることも貴重である。

今日一日が良い一日となりますように、特に親しい方を亡くしたり、大切なご令嬢の心の揺らぎに向き合っている方、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2021年5月21日  竹内上人

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