目白からの便り

初心に戻り、考え、行動する機会

今日の都内は気温は低いものの、青空が広がり、ガラスで覆われた高層ビルに強い光が勢いよく反射している。

今週、4月1日は多くの会社で入社式が行われた。企業や組織の人事担当者は、前例のない環境下で新社会人式を迎え入れる努力を懸命にしていたのであろう。

毎年、4月の入社式の時期に決まって新聞の広告記事を楽しみにしていることがある。ご存知の方も多いかと思うが、酒造会社が出稿する広告記事である。昔は山口瞳氏、現在は伊集院静氏の寄稿による。
筆者の方が体調を崩された後なので、不安な気持ちで購読している電子版の日本経済新聞の紙面をめくる。見慣れた文体でその「令和の社会人に乾杯。」は、今年も続いていた。

『…(略)…たしかに素晴らしい国と、人々が今日まで歩んできた。この脈々たる流れも偶然か?いや私はそう思わない。それぞれの時代にみな懸命に生きてくれたに違いない。アジアの片隅の、この国で人々は少しでも前へゆたかにと汗を流し、向かい風に立ってきた。そして何より、いつも新しい人が、新しい力を与えてくれた。…(略)…』

私が入社した1986年の新社会人へのメッセージは、「ゆっくり、ゆっくり」だった。失敗を恐れず自分に課せられた仕事を丁寧に、誠実に、真摯に向き合えと。何事にも迂闊な私にとって、この言葉にずいぶんと救われた。

もう一つ、入社式の時期に必ず思い出す言葉がある。入社式の式典が終わった後、役員が会場から立ち去り、体育館に取り残された20歳後半の経験未熟な採用担当の私とこれから職業生活を始める大勢の新入社員との式典後の弛緩した空気感の中で私自身への自戒の言葉として伝えている言葉がある。

「焦ってはいけません、頭を悪くしてはいけません、根気づくでお出なさい、世の中は今期の前に頭を下げることを知っていますが、火花の前には一瞬の記憶しか与えてくれません。うんうん死ぬまで押すのです。決して相手をとらえて、それを押そうと思ってはいけません。相手は後から後から我々の前に現れ、そうして我々を悩ませます。・・・」 記憶があいまいなところもあり、誤った個所があるかもしれないが、夏目漱石が静養中の伊豆から芥川龍之介に送った書簡に記された言葉である。

どのような環境でも周囲の人に良質で次につながる前向きな言葉をかけられるかが大切なのだと思う。社会においても、人間の価値は昔から変わらない。日常の仕事や役割に向き合う立ち居振る舞いは、誠実に努力することの積み重ねなのだと。特に長く経験を積んできた私のような年代の人間にとって、次の世代に少しでも模範となるよう、希望と励ましが与えられるよう意識できればと願う。4月のはじめ、何歳になっても初心に戻る機会に感謝する。

今日一日が良い一日となりますように、困難に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

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