目白からの便り

共感力の発揮 雨ニモマケズ 宮沢賢治

早朝の伊勢市内は、厚い雲に覆われているが、昨夜から降り続いた雨も上がりその湿度に音が吸い込まれるような落ち着いた朝を迎えている。

先日、何気なく連用日記を開いていて、2年前に花巻に旅行に行った時に入手した宮沢賢治の一文が書き写されているのに目が留まった。宮沢賢治で頭に浮かぶのは、「注文の多い料理店」、「銀河鉄道の夜」などの物語であり、あの「雨ニモマケズ」という散文である。

『雨ニモマケズ 風ニモマケズ 雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ丈夫ナカラダヲモチ 慾ハナク 決シテ瞋ラズ イツモシヅカニワラッテヰル 一日ニ玄米四合ト 味噌ト少シノ野菜ヲタベ アラユルコトヲ ジブンヲカンジョウニ入レズニ ヨクミキキシワカリ ソシテワスレズ…』

その重厚で思慮深い言葉の流れの中で、私が心を引き付けられ、静かに励まされるのは、後半の部分である。

『・・・東ニ病気ノコドモアレバ 行ッテ看病シテヤリ 西ニツカレタ母アレバ 行ッテソノ稲ノ朿ヲ負ヒ南ニ死ニサウナ人アレバ 行ッテコハガラナクテモイヽトイヒ 北ニケンクヮヤソショウガアレバ  ツマラナイカラヤメロトイヒ ヒドリノトキハナミダヲナガシ サムサノナツハオロオロアルキ・・・』

30年以上経験した企業人事の仕事を離れ、現在の職業に就いてから、キャリアにおいて節目と向き合っている多くの方と会う。本当に深刻な場面に直面している方も多い。世間的には大変な売り手市場でありながら、個別企業では企業業績の悪化により人員の合理化施策に向き合っている方もいる。50歳近辺以降の方たちの雇用情勢は、30歳代の若手と比較するときわめて厳しい現実もある。人事屋としては、豊富な経験をより活かせる企業横断的な雇用環境の仕組みを提供できないかと思案と工夫の速度を速めなければと思いを深める。

宮沢賢治の散文の原本は、小さな手帳に数ページにわたり、丁寧にという感じの文字ではなく、気持ちに任せてという勢いの文字で書かれている。そのバランスの悪い文字の形が、切実さを感じる。

「共感」することにより励まされることがある。失意から立ち直ることもできる。職場を超えて、具体的な業務支援はできなくても、「共感」の相互交流が行き交う組織は厳しい環境でもしなやかな耐久性をもつ。そして、このことは管理監督者の職場マネジメント力の優劣に委ねなくても同じ働く仲間として、社員ひとり一人でできることでもある。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

伊勢にて 竹内上人

関連記事

新着コラム

  1. 熱海の芸妓 芸を極めるということ

  2. 幼少期の言葉 忠恕

  3. 全世界が一つの舞台

PAGE TOP