目白からの便り

働き方改革について 職場における人間性尊重

今朝の都内はどんよりとした雲に覆われている。西日本から関東甲信越に至るまで大量の降雨が続いている。今日もじんわりと肌にまとわりつく暑さと格闘する一日となりそうである。

昨日は京都にいた。毎年この時期、国際産業関係研究所(同志社大学内)の定期総会と記念講演会(猪木武徳先生 大阪大学名誉教授)に出席する。7月初頭の京都は学生時代の記憶を強烈に呼び戻すほどの暑さと重い水分で満たされた空気が肌にまとわりつく。

配布された機関誌の巻頭言は、石田光男先生(研究所長 同志社大学教授)によるもので、「働き方改革の歴史的意義」と題されていた。「歴史的意義」の問題意識は、世間をにぎやかにしている働き方改革の主な論点は、どちらかと言えば労働者保護政策である。こうした労働者保護的な日本の雇用政策の中心軸が左派政党や労働組合によってなされず、なぜ、保守政党や経営者団体に頼らざる得なくなったのかという問いに向き合うのことにその背景があるのだと。

日本の多くの働く人が、どうして報酬としてのパイの分配の仕方にこだわりを持たず、本来、経営者の関心事項であるパイを大きくする為の活動に意識が傾斜するのか、むしろ積極的に支持してきたのかというの根拠を解きほぐさないと働き方改革の一丁目一番地とされる長時間労働の是正にはたどり着けないのだと感じる。

職能給的な賃金体系が、職務定義を曖昧にし、仕事の制限意識を希薄にするという論点だけでは長時間労働の方程式は恐らく解けない。そして、仕事の範囲を明確にする職務給に移行するという施策は反って日本企業の競争力の源泉の持ち味を棄損する可能性が高い。働く職場を「人間的に居心地がいい場」としての大切な共有財産にする感覚は労働倫理性を高め、組織生産性を堅牢にしてきた。多くの経営者自身の意識もこの感覚の齟齬は少ない。

明治維新から150年を迎える。この近代国家の創成期に当時の支配階級で国家建設の仕事に奔走したのは、封建時代において分断化された藩政の下層士族がその原動力になった。彼らは、列強による植民地化に対する脅威に怯えながら統一した国家の建設に向き合った。個人を超えて、民族としての共通資産を守り高める為の「国民」の形成に苦心した。その過程の中で長期にわたって醸成された共同体としての国民意識と胎内に記録されたDNAの符号を短期で書き換えることは容易ではない。またその変革の副作用も大きい。パイの極大化に関心が向く背景にはこうした「個人」を超えた「共同体」の尊重の積み重ねの歴史がある。

一方で、高い労働倫理性を有する職場共同体の美徳と競争力を温存しつつ、働き方改革で最も注意して取り組むべき緊急度の高い対象課題はもう少し別なところにあるのではないだろうか。それは、少し強い言葉の使用を許されるなら、職場内の人間的な尊厳を傷つける行為を、罪の意識を感じずに横暴に振る舞う行為の成敗に尽力すべきことだと経験的に感じている。職場で起こる悲しい出来事の多くは、長時間労働そのものより、こうした横暴を許してしまうことにより起因していることが多い。

学生時代を過ごした大学で雇用に関する研究所の総会とそれに続く講演会を聞きながらこうしたことをぼんやりと考えていた。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

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