目白からの便り

古事記

みなさま

ホテルに備え付けの机の引き出しの中に「古事記」が置かれている。このとてつもなく古い物語には、天照大御神(あまてらすおおみかみ)や須佐之男命(すさのおのみこと)と一度は耳にした覚えのある神様の名前が書き記されている。その数がとても多いことと、どのように読みあげていいのか見当がつかぬ漢字の配列に後ずさりする。
ただ、よくよくあらすじだけを読み流すと、物語の中に登場する神々の極めて人間的な面に触れ、その意外さに驚く。先の二人の神様が姉弟であることも初めて知る。天照大御神が姉であることも。

この二人は、ある時、仲たがいをして、兄の天照大御神が怒ってしまい、天の岩屋戸(あまのいわやと)という洞窟に入り込み、神々が暮らす高天原(たかまのはら)が闇に包まれる。困った八百万の神(やおよろずのかみ)達は相談し、洞窟の前で祭りを行い、その喧騒に気を取られ外をのぞいた隙をみて、天照大御神は、外に引っ張りだされ、二度と洞窟に入らぬようにその入り口にしめ縄を張られたとのこと。おかげで、高天原にも明かりが戻ったという。

神様の世界もとても人間的な味わいがあるのだと、冒頭の部分だけを読みながらその「古事記」という書物の面白さに触れる。

普段の私たちの生活の中も、人間的な営みの連続である。毎日の中に楽しみや喜びがあったり、落胆するような出来事や深い悲しみに遭遇もする。いがみ合ったり、嫉妬をしたりといったことも、最近の目まぐるしく変わる天気のように周期的におとづれ悩まされる。おそらく今日もいつもと同じような様々なことが身に周りに起こるのであろう。
それでも、神様ですら、兄弟げんかをし、引きこもりのような行動をするのだからと、この「古事記」の物語に触れて自らの小心さに安心したりもする。

週報が古事記のほんの冒頭のあらすじの紹介になってしまったが、歳を重ねても知らないことは多く、なにかに主体的に触れ興味を持つことで新しい視点に気づく。新しい何かに触れた時に、感じ取れる純粋さと、謙虚さをもつことも大切だと。そして、その精神の柔軟さがある限り、人生の楽しさも増してくる。

時間とともに朝の陽ざしも強くなってきた。今日は久しぶりに天気が回復するのかと安堵する。太陽の神である天照大御神のご機嫌もよさそうだと考えると、この強い日差しの感じ方もほほえましくなり、気分も前向きになる。気持ちの持ち方が変わると物事の見方や接し方も変容する。新たな小さな出会いを長く続く価値ある出会いに変換することも可能だ。そうしたちょっとした心の持ち方で、人生が大きく変わっていく。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

伊勢にて 竹内上人

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