目白からの便り

年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず

今朝の松本は、薄い灰色の雲が満遍なく空を覆っている。美ケ原の先端にある王が頭(2034m)のあたりを眺める限り寒々しい色合いである。

寒い日が続くと思うと、急に暖かい日が続いたりと、4月の天候は松本でも目まぐるしい。
その影響なのか、自宅の近くにある松本城の桜は、今年は不思議にまだ散っていない、荒れた天候を耐えて多くの桜がその華やかさを残している。
松本はおおよそ標高が600メートル弱である。市の中心部にある松本城の天守閣の最上階が620メートルなので、松本を訪れ、お城に上るとちょうどスカイツリーのてっぺんの高さにいることになる。

市街地から100メートルくらい登ったところに城山公園という市民公園がある。松本城の桜が散るとこの公園の桜の見ごろになる、また更にその奥にあるアルプス公園は、標高が800メートルで、城山公園の桜が散りかけると、アルプス公園の桜が見頃になる。松本に住んでいると4月中は絶え間なく桜を楽しむことができる。

さらに美ケ原高原への登山道の途中にある「広木場」(1580m)には、一本の桜がある。毎年登山シーズンの初めに体を慣らすために5月の連休にこの登山道を登るのだが、ちょうどそのころ桜が満開になっている。
美ケ原へは、多くの方が車で簡単に出掛けることができる。わざわざ、麓から登山道を登る人も稀である。誰もいない山の中の少しばかりの広場にある凛として咲き誇る一本の桜の様子を毎年見て、一年の無事を確かめる。5月の初旬まで私の花見は続く。

一年を通じて、私たちの周りでは、さまざまな事が目まぐるしく起こる。良いこともあれば、つらいこともある。意に反して人の期待を裏切ってしまうこともあるし、心なく裏切られることもある。

桜の時期なると「年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず」(唐代詩人 劉希夷)の詩の一句が蘇る。今から35年以上も前、京都の修学院離宮の近くにある関西セミナーハウスで、恩師である中條毅先生(現同志社大学名誉教授)から新入生に語られた言葉であった。今でも覚えているのが驚きでもある。詩の意味するところは、凡庸としているとすぐに人の一生は老いたどり着いてしまうということである。目まぐるしくわが身に起こる出来事を、願わくはすべからく滋養として取り込み、しなやかに生きる糧にしたい。

今日一日が良い一日となりますように、また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本市にて 竹内上人

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