目白からの便り

働く人の官位相当表

今朝の松本は、どんよりとした雲に覆われ、小さな雨粒が降りてきたり、やんだりと、はっきりしない降りかたを繰り返している。松本城の公園の桜は、まだまだ先で、やっと紅白の梅が、その役割を果たしたという感じである。

春は、多くの会社や官公庁で人事異動の時期である。新たな役職に任用されて、心が励まされる方もいるし、少し不本意な期待に意気消沈している方もいるかもしれない。ただ、働く人にとって比較的に現在でもドラステックに賃金が大きく振れるケースが少ないのも日本の伝統的な賃金体系の良さでもある。以前の週報でも触れたが、日本組織管理に根付いている職能資格制度の恩恵でもある。

何気なく、高校に通う長女の高校の国語のガイドブックのページをめくっていたら「官位」に関する一覧表を解説するページがあった。
なかなか興味深いものだと感じ入った。官位については、深い知識がなく、「大納言」とか、「中納言」などの言葉の意味合いを知らずに今まで過ごしてきた。別に知ったからといって、この時代になにか役立つこともない。

そのページには両面を使って、「官位相当表」というマトリクス表で解説が加えられていた。これが人事屋の立場でみるととても面白い。
そもそも職能給制度に裏付けられた、戦後日本の賃金制度は、担っている仕事の種類によって支払われるものではなく、それぞれの働く人の能力によって位置づけられた職能資格に対して処遇されるものであり、組織の中での異動、再配置、人材育成の為のローテーションを個人が持つ賃金額にそれほど手を加えずに組織の都合によって配置できるといった卓越した仕組みを作り出したのだと事あるごとに感心してきた。

しかしながら、この「官位一覧表」をみて愕然としたのである。すでにはるか平安時代以前の古から、日本は職能給だったのだと。つまりこうゆうことである。官職としての「太政大臣」は、資格としての「位階」は「正一位」か「従一位」の位階をもつ人材が任用される。それでは、「少納言」はというと、少し下がって、「従五位の下」という位階を持つものが任用される。軍事を司る近衛府の「少将」という官位を担う位階は、「正五位の正」が相当する。

学生時代、さまざまな会社の賃金体系の歴史を紐解きながら、日本の労使関係のエッセンスを探ろうとしていたのだが、そもそも、その原型は、この官位任用の仕組みにあったのだということを知り、その歴史の長さと人々の意識の根底に与え続けた価値基準の重さを痛感した。

この春、新たに任じられた役割は、自分を鼓舞するものであったり、少し意気消沈させるものであったりするかもしれないが、自分の経験からも、第三者的な評価は、冷静に受け止めながらも、自分自身の価値基準と将来展望を堅持してほしいと思う。自分自身で、客観的にオリジナルな官職と位階を付与することが、予測不能な悪路を安定的に進む知恵なのかとも思う。この一年、頑張って、自分で定めた原理原則を厳守し、自分だけの為でなく社会や家族、自分以外の人の為に少しでも役に立とうという意思を持ち続けた方は、立派な官職や位階を自分自身で与えもいいのだ。

この週末は、天気が思わしくなさそうで、桜を鑑賞するには少し残念な天気になりそうですが、また長く桜を楽しめる時間も先に延びるという余裕も得られそうである。今日一日が良い一日となりますように、また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本にて 竹内上人

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