春の気配を感じるにつれて、信州のJR沿線の駅には、登山をする人の姿を見かけることが多くなった。時々、都内の列車の中でいかにも冬山から帰還した風体の方を見つけると思わず声をかけたくなってしまう。共感資本のなせる技なのかと思う。松本駅前のお城口に遠く北アルプスの山々を眺める方角に向けて、一体の銅像がある。播隆上人(ばんりゅうしょうにん)の銅像である。槍ヶ岳や穂高など北アルプスの登山を志す方の多くは登山前に対面してこれからの山行の安全を願ったり、抱負を伝えたりするのかもしれない。播隆上人(1782年から1840年)は、浄土宗の僧侶、彼の生家は一向宗で、明治5年以降は浄土真宗となる)で、登山者というより修行僧である。彼が1828年7月に開山した北アルプスの最高峰の槍ヶ岳(標高3180メートル)は現在の登山者の憧れの山でもある。播隆上人に興味を持たれた方は、新田次郎の「槍ヶ岳開山」(文集文庫)を読まれてみるといい。きっと人生の深い味わいを苦みとともに感じられるであろう。
登山をキャリアの考え方と重ね合わせることが私にとっては自然のものになっている。高い目標はあるのだが、その工程は様々なルートがある。時々とても前に進めないようなルートもあったり、安心して登っていたら、落石の危険地域であったり、大きな深い谷底のようなキレットに出くわして前に進めなくなり後戻りをしないといけないこともある。地図に頼らず、油断していると道迷いで遭難の危険性もある。
また、登山は、単独登坂もあるが、複数のメンバーと同行しながら、安全と協力を保ちながら山頂に向けて計画的に歩んでいくことが一般的である。キャリアデザインも一人でできることもあれば、その目標達成のために複数の、また多数の仲間の支援があって、初めて高い目標に到達することができる。大切なのは、目標を持つということと、計画的にその工程を設計しつつも、環境変化に応じて適時見直し、引き返し、次の機会を待つという行為をする個々人及び組織のマネジメント力なのでもある。
これから4月に向けて、新しい事業年度の組織変更の内示を行われる会社も多いだろう。4月1日付けの組織変更の人事異動や発令の内示を受け、これからのキャリアの役割やルートが自分の希望通りであったり、願いとは異なるルートやチームの中で達成しないといけなかったりということもあるかもしれない。組織人の宿命でもあるが、そこにある喜怒哀楽は私も深く、深く経験している。
登山者がよく口にする言葉で、「山はいつまでもそこにあるから焦る事は無い。またうまくいかないときには、次の機会を狙うことだ」と。天候が悪化するようであれば、予定変更も大切である。キャリアデザインの工程表を眺めながら、いつかこの頂きに登頂するという楽しみを持ち続ける事は、人生にとって、キャリアのモチベーションの源にとっても大切な糧になるだろう。「計画化された偶発理論」の成就も成り行きに流されない、確固たる目標を持ち続ける人に幸運の女神は微笑むものだ。
この時期、登山をしない方も、近くの山でもいいので、自分のキャリアの目標を思いながら山頂を眺めてみるといい。そこに至るルートが、鮮明に想いの中に湧き上がってくるはずだ。湿度が高くなる前のこの透明感溢れる季節に、自己のキャリアを思いながら山頂を眺めることは、これから登り始める若い人にとっても、中腹で息弾ませながら格闘しているシニアな方にとっても価値ある瞬間となるはずだ。
今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。
2025年3月28日
(AMAZONでの電子書籍)
『人事屋が考える20代のためのキャリアデザインの教科書: 戦略的キャリアデザイン講座 1 Kindle版』 著者 竹内上人 (著)
人事屋が考える20代のためのキャリアデザインの教科書: 戦略的キャリアデザイン講座 1 | 竹内上人 | コミュニケーション | Kindleストア | Amazon
(コラム週報のバックナンバー)
https://mcken.co.jp/category/weekly-column/
(e-learningの情報 人事やキャリアに関する講座)
https://mcken.co.jp/e-learning/