目白からの便り

中小企業の人的資本経営について その6

副題:人を媒体として深化された価値が時代を超えて継承される

みなさんは、「やまと絵」をご存知であろうか。過日、上野の東京国立博物館で特別な展示会があり、それらを鑑賞する機会を得ることができた。私達が学生のころ、歴史の教科書に掲載されていた見覚えのある作品と初めて対面することになった。

やまと絵とは、中国を起源とした唐の時代の絵や漢画といった海外から日本に入ってきた美術の技法などの蓄積から、日本で独特に展開してきた美術・芸術領域である。春夏秋冬の四季の変化や、行事の花鳥風月などの物語をテーマに描かれてきたものである。館内に整然と陳列された古の作品を鑑賞すると様々な思いが脳裏を駆け回る。描写は色彩があり優美でもあり、繊細でも有る。そして、その当時の社会や世間の動向を巧みに描き出し描写している。時には、それらは空想小説、SF小説のような構図で描かれている。それらの構図は、ユーモアに満ち溢れ、洒落ているのである。かつて、どこかの機会で目にしたことがある源氏物語絵巻の夕霧であったり、信貴山縁起絵巻の飛倉巻であったり、鳥獣戯画や、歴史の教科書で鮮明に記憶に刻印された源頼朝像であったりする。

作品の物語性はとても興味深く、仏僧の集団が地獄に出征し、悪魔を成敗するという構図のやまと絵もある。庶民的というか空想的な構図を平安時代に描き出している発想力に驚く。こうした作品を観ていると、現在の漫画やコミックなどの作品にも繋がっていったのではないかと想像が膨らむ。新しいものをゼロから作り出すことはなかなか難しいことであるが、先人の残した貴重な作品を踏まえて、それを昇華させていくことの大切さを感じる。

過去の実績を新しい価値に変換し、イノベーションとしての創造的な破壊活動を連鎖させている(伊丹, 2009)、(米山,2020)。人事屋だからより一層、意識してしまうのかもしれないのだが、重要文化財でもある「年中行事絵巻」などは、宮中の年中行事を精密に描写し、その絵そのものが、伝統行事の記録資料として活用できそうである。おそらく歴史劇などの時代考証にも使われているのだと思うし、当時の人達も重要な行事の参考資料として活用していたのかもしれない。人間ができることは限られている、それは、時間もお金も、そして能力も、である。世の中の新しい試みは、先輩たちの残してきた価値の新結合だということを謙虚に受け入れると、私たちは、次の創造活動のスタートラインにつける。

創業以来、ヒトによって積み重ねられてきた価値を、ヒトを媒体として新しい価値に変容させていくことをためらわず、面倒がらずに取り組んでほしい。過去の手書きの設計図面にも、先輩たちの苦心の痕跡が刻まれている。ヒトは資本でもあり、循環サイクルの媒体でもある。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2024年3月22日  竹内上人

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※現在連載中のコラムは、今年3月に発行された中部産業連盟機関紙『プログレス』寄稿文の原文
(今回のコラム全編での参考文献)

その6
伊丹敬之『イノベーションを興す』(日本経済新聞出版社 2009年)
米山 茂美『リ・イノベーション視点転換の経営: 知識・資源の再起動』(日経BP日本経済新聞出版本部)2020年

その1からその5までの参考文献
石田光男『仕事の社会科学』(ミネルヴァ書房)2003年
今野浩一郎『同一労働同一賃金を活かす人事管理』(日本経済新聞出版)2021年
竹内倫和『自律的キャリア形成態度と職務探索行動結果に関する因果モデル』(商学集志)2020年
江夏幾多郎 『人事評価やその公正性が時間展望に与える影響:個人特性の変動性についての経験的検討』組織科学 V ol.56 No. 1 : 33-48 (2022年)
守島基博『全員戦力化 戦略人材不足と組織力開発 』(日本経済新聞出版)2021年
城山三郎『官僚たちの夏』(新潮社、1975年)

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