副題:「あいまいさ」が民主的か、専制的かの組織構造に影響を与える可能性
自分の意見を明確に伝えることは、正しいことであろうか、あるいは他者との軋轢を生む留意すべきことなのか。日本的なコミュニケーションの土壌には、「あいまいさ」を許容する空気がある。その「あいまいさ」が組織において、誤解を生み、意思決定が遅れ、組織の機動性を損なうとされ、明確な意見を提示し、是々非々で議論を尽くしあうことの大切さ求められるようになった。お互いの相違点を明確にすることが、次のステップに向けての出発点であるということが前提となる。
情報の伝達というコミュニケーションの概念に、「ハイコンテクスト」と「ローコンテクスト」という考え方がある。コンテクストとは、英語でContextと示され、意味的には「文脈」という。肯定的な解釈では、状況理解、話題や経過の前後関係、前提となる環境条件などの理解を示す。日本的な「忖度(そんたく)」、あるいはもう少し肯定的な「阿吽(あうん)の呼吸」、「行間を読む」などもそのコンテクストに組み込まれるのであろう。この考え方は、文化人類学者であるエドワード・T・ホール氏が『文化を超えて』(1976年)と著書の中で、世界の言語コミュニケーションの形態を高文脈文化と低文脈文化に分類したことに始まる。感覚的に理解しやすく、人事の領域でもグローバルマネジメントにおける組織管理手法の視点で長く研究と実践が行われてきている。
高度な文脈解読力が必要とされる「ハイコンテクスト(高文脈)」は、発せられた言語情報以外の今までの経緯や相手の置かれた環境、相手の言葉の使い方や、微細な表情の変化などの様々な周辺情報を統合し、類推することによって、コミュニケーションを通じての情報を受け手側が再生成する。その反対に、「ローコンテクスト(低文脈)」は、伝達された言葉そのものを正確に受け取り、その経緯や文化的、個人的な背景で情報を再生成することなく、伝えられた明確な言語情報の存在によってのみ、相手とのコミュニケーションが成立することと類型される。
先行研究では、日本は、言語情報以外の様々な周辺情報を総合的に統合して、相手の意図するところを理解するという「ハイコンテクスト(高文脈)」の文化的特性をもつ社会であり、アメリカは、明確な言語情報を通じてのみ相手の意図を理解する、あるいは、しようとする「ローコンテクスト(低文脈)」の社会として類型化されている。そして、異文化コミュニケーションを円滑に進めるためには、こうした言語以外の情報を理解することが必要であると示唆されている。(佐久間,2003)
グローバルな社会関係になればなるほど、欧米で一般化されている「ローコンテクスト(低文脈)」の環境下でのコミュニケーションが必要であるとされ、日本のような言語情報以外の情報で、意図を理解していくということは、望ましくないとされている。
自分のことを振り返ると、伝達される言語情報だけで、情報発信者の意図を完璧に理解はできない場面に多々遭遇する。日本のように「ハイコンテクスト(高文脈)」の社会においては、この完全に理解できない、踏み込まない領域に先述した「あいまいさ」が美徳として、また必要不可欠な調和剤として存在してきた。日本の社会において今でも明確に意味や立場の境界線に線引きすることによって攻撃的な構図や、感情的な対立を招いてしまう現実がある。更に第三者的にそうした構図を楽しむ空気や嗜好を傍観者的に持ち、本質的な議論から外れ、対立や攻撃構造そのものを楽しむといった状況に陥っても看過してしまう脆弱性も持ち合わせるといった困った現象も起こってくる。
こうした対立や攻撃的な構図は、言葉の送り手の語彙力の弱さに原因もあるが、言葉の送り手、受け手の双方の感情処理能力の程度にも影響される。もう一つ留意しないといけない側面は、許容量が低い感情的な心境のまま、送り手側が自己を正当化するために、相手を批判することにその目的が変容し、自分の意見と相手の意見の両方が存在することを許さないという構図に発展してしまう危険性があるということの理解である。これは文化的な価値観の問題でなく、「民主的」か、あるいは「専制的」か、という組織力学的な構図に発展してしまう可能性も含まれる。私は日本の組織が、「あいまいさ」を許容しすぎることにより、組織内の専制的な脅威の出現に無防備になってしまう危うさも感じてしまうのである。このような構図を招かないためにも、送り手、受け手双方が、面倒でも適切に情報や意図が相手に適切に伝わる語彙力の鍛錬と、EQ(心の知能指数)のような適切な場面で、適切な感情を選択し、適切な感情の分量を使うという感情マネジメントの力量を向上する訓練が必要になる。
今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。
2024年1月26日 竹内上人
【文中参考文献】
異文化コミュニケーションの様々な側面一言語以外の要素について 佐久間重(名古屋文理大学紀要 第3号 2003)
Beyond Culture (1976) エドワード・T・ホール(Edward Twitchell Hall, Jr.
日本語訳『文化を超えて』岩田慶治・谷泰共訳、阪急コミュニケーションズ、1993年
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