目白からの便り

伝統的な人事システムからのダイナミックな転換の近道にある中小企業 その1

大学の留学生を対象とした講義で、日本的な経営システムを学びながら、日本でのキャリアをどう構築していくかを題材にしている。講義の中で日本の企業でなぜ、海外からの留学生の採用が拡大していかないかというテーマでグループディスカッションをする。私は彼らの答えに感心した。よくわかっているのである。

理由の上位には、どのグループも「短期的に出身国へ帰国してしまう心配」、「短期で他企業へ転職してしまうリスク」があげられていた。この心配は日本企業の人事担当者の共通の心配事でもある。3年から5年くらいで転職をされてしまうと、初期の人材育成投資が終わり、これから実践的な活躍をしてもらいたいというタイミングで貴重な人材を失うことになる。

日本の多くの企業における若年層の人材確保は「新卒一括採用、4月入社」での秩序が保たれている。昇給制度もなだらかなカーブを描く「職能給的な給与体系」で査定幅を拡大するもののその原型は、日経連が能力主義管理を提唱した1970年頃から基本的には変わっていない。「職務給化」への意識は高まりつつあるものの機動的配置の利便性を支える職務転換(ジョブローテーション)時の賃金設定の整合性に不都合が生じる懸念から踏み込めない。更に長期的な雇用慣行の労使双方の心理的契約から人材を過度に内部留保しようとする硬直性と社外の雇用流動化インフラの脆弱性から突破口を見いだせないでいる。また法的な環境においても、解雇を伴う雇用調整に関する格段に厳しい日本の労働行政の制約に向き合い経営者も人事担当者も大胆な構造改革に躊躇し、積極的な雇用拡大施策や極端な報酬拡充投資に踏み出せない。こうした環境下で苦心しながらなんとか取り込んでいる職務価値や現在の貢献度評価の要素を引き出す「役割給」的な色彩を賃金制度に一部反映しているものの、その対象は管理職クラスの給与グレードが主流で年齢的にも40歳前後以上が対象と限定されている。

従来、日本企業の人事システムは企業内部の労働市場を基軸とした高度な労働生産性を確保する上では有効に機能してきており、現在もそのすべてを否定するべきものでもない。しかしながら、情報基盤の進展に伴い、グローバルに雇用情報や報酬水準が公開され、共有化される傾向が強まる現在において、20歳代後半から30歳前後で高度な就労意欲と刺激的な自己効力感を期待する人材層に対しては、日本の人事システムは魅力的に映らず、留学生のみならず、日本人学生にとってもダイナミックな活躍とその魅力的な対価の可能性を予感させる期待感を充足させない。一部の学生は日本企業に就職するリスクを察知し、海外でのワーキングホリディーの仕組みを利用し、語学の習得と、様々な就業体験、高い報酬の可能性を追求し始めている。

私たち大人は、慣れ親しんだ労働慣行に甘え、自らの既成概念に陶酔し、既得権益にこだわり続け、こうした閉塞感を若年層に持たせ続けてよいものかと思う。戦後の荒廃からいち早く抜け出し、人材活用の巧みさにおいて世界の羨望を受けた日本企業の経営者が、このあたりで、もう一度大胆に挑戦する絶好のタイミングでもある。(次週に続く)

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2023年10月27日  竹内上人

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