キャリアの作り方

就活生諸君! キャリアデザインは個人戦ではなく、総力戦だ

都内にこんなに静かな空間があるかと思うほど落ち着いた空気が流れるところに質素ではあるが圧倒的な存在感を示す建物がある。長い年輪を刻んだ樹木の中に囲まれている。建物の前の案内版には、乃木館と記されている。日露戦争で二百三高地攻略の指揮をとった乃木希典元帥の名にちなんでいる。彼は、学習院大学の院長として、歩んできた経験の全てを学生と一緒に寄宿し全人格的教育に尽力した。

この二年間、学生としてこの目白に有る大学の大学院経営学研究科に通った。仕事をしながらの勉強は、その両方の消化不良感に常に悩まされながら、なんとか一日一日のスケジュールを乗り越えていくといった感じの毎日であった。満点を目指そうとすると窮屈になる。落第でもいいかと思うと、奈落の底に落ちていく嫌悪感に悩まされる。ある時期から、60点から70点を目指そうと思った。一勝一敗ではなく、少しだけでも勝ち星が多いところを目指そうと。

仕事でも、ゼミや履修科目の発表の準備でも、そんな気持ちで自分を励ましながらの2年間であった。そうした時間も、1月初旬に修士論文を提出する頃には終止符が打たれる。今は、本当に完了するのかと焦燥する中で修士論文に向き合いながら、多くの人たちの励ましに感謝しながら格闘しているといった感じである。

私の論文のタイトルは、「戦後復興期からの八幡製鐵所の業績手当の考察、集団間の競争」である。修士論文の文献や資料を整理する中で人事の実務家としていくつかの発見もできた。

日本の人事管理の卓越性としての長期的雇用視点にたった熟練形成とそれを支える職能給的な報酬制度に加えて、小集団を単位とする「集団間の競争」のメカニズムが戦後から存在し、その機能が、QCサークル活動等の品質管理の小集団活動にバトンタッチされ、現在もアメーバー経営など優れたマネジメントの枠組みに伝承されてきている。人事制度の歴史的観察は、考古学者のように事実を重ね合わせながら推論するといったロマンチックな作業でも有る。

そんな格闘の日々であるが、自分自身に余裕がないにも関わらず、キャリアに関する相談を受ければ、できる限りの支援を試みる。初めての就活と向き合う大学3年生の今は、本当にこれから怒涛のように訪れる就職活動の渦中に突入する恐怖と不安との前哨戦が始まろうとしているのであろう。私が、最初に彼らに伝えるのは、次の3つのことである。(1)就活のゴールは、内定通知の獲得ではなく、入社後の10年から20年の着地点としての目標をどう考え、伝えるかということを大切にして面接に望むこと、(2)自分自身のキャリアの希少性は何かを考え、自分でしか果たせない貢献価値を考案し、それを研ぎ澄まそうという計画をし、今から少しでも実行にうつすこと。(3)クルンボルツ博士の提唱した「計画化された偶発理論」の純粋な実践者になること、である。

そして、キャリア設計のプロセスは、企業活動でいうところの事業戦略策定プロセスの手順に近いことを説明する。多くの就活生が自分探しの領域で留まってしまうことに一抹の不安がある。キャリアにおいても、需給構造からの就職先としての顧客要求仕様の明確化が求められる。そこにはキャリア上のライバルの競合分析も不可欠である。整理検証する項目は多々あるが、手順に沿って取り組めば必ず良質なキャリア設計図が完成する。

あとは人間力である。個人一人で持つ能力は限られる。キャリアは個人戦ではなく、その人の周囲に幾人の協力者がいるか否かという総力戦なのだ。そのために自分自身の人間性を高め、練達する努力を地道に続けることである。信頼を得られる人間になるためには精神の鍛錬も不可欠である。

大学構内を散歩する毎に、乃木希典が院長の要職にあっても学生と寄宿し、自身の生き様を通じて人の育成に取り組んだことにその意義と重みを感じる。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2022年12月 16日  竹内上人

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