目白からの便り

やまと絵 先行者の恩恵をどう活かすか 場所と空間の効力 その1/3

副題;経験を蓄積し、イノベーションを興し、次世代に活かす

先日、友人と上野にある東京国立博物館を訪れた。平成館の特別展示で、2023年10月11日から12月3日(日)の予定で、「やまと絵−受け継がれる王朝の美−」と題して、特別展が行われていた。やまと絵は、平安時代(794年〜1185年)の前期ころに日本で成立した独特の美術作品である。特別展では、国宝級の多くのやまと絵が展示されていた。私達が学生のころ、歴史の教科書に掲載されていた見覚えのある作品も初めて対面することになった。

やまと絵とは、中国を起源とした唐の時代の絵や漢画といった海外から日本に入ってきた美術の技法などの蓄積から、日本で独特に展開してきた美術・芸術領域である。春夏秋冬の四季の変化や、行事の花鳥風月などの物語をテーマに描かれてきたものである。芸術作品には、全く疎いといっていい自分であるが、館内に整然と陳列された古の作品を鑑賞すると様々な思いが脳裏を駆け回る。描写は色彩があり優美でもあり、繊細でも有る。そして、その当時の社会や世間の動向を巧みに描き出し描写している。時には、それらは空想小説、SF小説のような構図で描かれている。それらの構図は、ユーモアに満ち溢れ、洒落ているのである。

かつて、どこかの機会で目にしたことがある源氏物語絵巻の夕霧であったり、信貴山縁起絵巻の飛倉巻であったり、鳥獣戯画や、歴史の教科書で鮮明に記憶に刻印された源頼朝像であったりする。 これら全て国宝の貴重な作品群である。

作品の物語性はとても興味深く、仏僧の集団が地獄に出征し、悪魔を成敗するという構図のやまと絵もある。庶民的というか空想的な構図を平安時代に描き出している発想力に驚く。
こうした作品を観ていると、現在の漫画やコミックなどの作品にも繋がっていったのではないかと想像が膨らむ。

新しいものをゼロから作り出すことはなかなか難しいことであるが、先人の残した貴重な作品を踏まえて、それを昇華させていくことの大切さを感じる。過去の実績を新しい価値に変換し、イノベーションとしての創造的な破壊活動を連鎖させている。(伊丹, 2009)

また、人事屋だからより一層、意識してしまうのかもしれないのだが、重要文化財でもある「年中行事絵巻」などは、宮中の年中行事を精密に描写し、その絵そのものが、伝統行事の記録資料として活用できそうである。おそらく歴史劇などの時代考証にも使われているのだと思うし、当時の人達も重要な行事の参考資料として活用していたのかもしれない。人間ができることは限られている、それは、時間もお金も、そして能力もである。世の中の新しい試みは、先輩たちの残してきた価値の新結合だということを謙虚に受け入れると、私たちは、次の創造活動のスタートラインにつける。(次週に続く)

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2023年11月10日  竹内上人

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