目白からの便り

キャリア設計の方法と夏目漱石の言葉

今朝の伊勢は薄い雲に空全体が覆われているが、風もなく穏やかな朝を迎えている。ここ数日、強風が吹いたり、地域によっては降雪があったり、春を迎える気候の不安定な一週間であったが、週末以降は安定した春らしい気候になりそうで楽しみである。

今週から、大学での新学期が始まった。今まで担当してきた2つの大学に加えて、今学期から学習院大学で新たに通年講座(経営総論)が加わる。経営の基礎的な論理を紹介しながら、キャリアの設計のプロセスを重ね合わせて講義を進めていこうと思う。

今までの経験から、事業戦略や経営管理の仕組みの構造化や策定プロセスは、働く人のキャリア設計のプロセスとの類似性が高いと考えるようになった。企業が顧客に提供する、「商品やサービス」といった価値と、働く人が企業や社会に提供する「労働」という価値は、その定義化、創造プロセス、信頼関係の持続的構築化を通じて、相手にとってかけがえのない存在となる。

企業が陥る、つくり手の都合による一方的な押し売りに近い商品化と同様に、個人もやりたいこと、できることに焦点を絞り込み過ぎたキャリア設計は、相手にとっては、価値の押し売りでしか映らない。自分の持ち味や理想を明確化することはもちろん大切だが、キャリアの買い手の困りごとや要求ニーズを冷静に探り合わせることも同じように大切である。

新しい環境に加わる方との場面に立ち会うと必ず思い出す言葉がある。入社式の式典が終わった後、役員が会場から立ち去り、体育館に取り残された20歳後半の経験未熟な採用担当の私とこれから職業生活を始める大勢の新入社員との式典後の弛緩した空気感の中で私自身への自戒の言葉として伝えた。

「焦ってはいけません、頭を悪くしてはいけません、根気づくでお出なさい、世の中は今期の前に頭を下げることを知っていますが、火花の前には一瞬の記憶しか与えてくれません。うんうん死ぬまで押すのです。決して相手をとらえて、それを押そうと思ってはいけません。相手は後から後から我々の前に現れ、そうして我々を悩ませます。・・・」 記憶があいまいなところもあり、誤った個所があるかもしれないが、夏目漱石が静養中の伊豆から芥川龍之介に送った書簡に記された言葉である。

企業においても、社会においても、人間の価値は昔から変わらないように思う。良質な計画とマネジメントの仕組みを構築しながら、取り組みにあたっての立ち居振る舞いは、誠実に努力することの積み重ねなのだと。

今日一日が良い一日となりますように、困難に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

伊勢にて 竹内上人

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